dialogue.umezu.半魚文庫
ウメズ・ダイアローグ(3)
わたしは真悟
(その3)
樫原かずみと高橋半魚の楳図対談です。この対談は、メールによって行なわれました。対談期間: 2000-06-06〜07-24
2000(C)KASHIHARA Kazumi / TAKAHASHI hangyo
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▲ プログラム5[まりん]
◆ Apt :1 何か
半魚 「Program 5 まりん」です。
扉、見開きですね。それに子どもが3人もいますね。
樫原 しかも、本誌掲載時はカラーですね(笑)
『ビッグコミック・スピリッツ』1984年12月30日(no.24)
半魚 マリア像って、手を合わせるんですかね。観音様みたいです。
樫原 ホントだ・・・。クリスチャンて組みますよね(笑)ま、それはそれとして・・・
半魚 空気も異様で、霧の町ロンドンってとこですか。
樫原 霧!うーんそういえば思い出しましたがホラー小説の大家「クライブ・バーカー」もイギリス出身ですが、この人の舞台はイギリスの廃墟跡とか、荒野が舞台が多くて楳図のイメージにピッタリだと思いました。
半魚 楳図自体には、元来は、こういうイギリス的なものよりも、日本の山々や日本風洋館が基本的に似合っていたのですけどね。
樫原 そうですね。昔「エクソシスト」の挿絵を描いてらしたみたいですが、やはり日本顔でしたね。
半魚 んー、まあまあガイジンだったと思いますけどねえ(笑)。
樫原 いやー、どこを見ても「楳図」でした(笑)
半魚 ははは。
「マリア像の額から血」ってのも、実はたんなるいたずらで、こういうのも、ヤリますなあ。
樫原 最初は「聖痕」(?)みたいな神聖な感じがしてこれから始まる悲劇を否が応でも盛りあげますねえ・・・。
半魚 そうですねえ。
暴走族「針の目」、かなり過激に破壊(殺人)してますね。ここにも虹が出ますね。
樫原 あ、ほんとだ・・・。この暴走族の惨殺シーンはかの名作「ゾンビ」のパクリですね(笑)
半魚 ああ、そうですか。どこがですか?
樫原 全体の流れが、ゾンビのクライマックスで見せた惨殺のノリです。
半魚 ふーむ、そうですか。
樫原 クールでドライな殺戮!うーん現代的!!
半魚 たしかに、クールでドライです。80年代的というか。このへんは、楳図先生はぜんぜん古くならない人ですね。
樫原 でも、この殺戮は、かなりコメディっぽいですね。アメリカ的というか・・・。
半魚 いやいや、それは「最初は悲劇、二度目は喜劇」ですよ。『神の左手悪魔の右手』もそうだけど、やっぱ最初に見たときは、このスプラッタにびっくりしますよ。
樫原 え?そうでしたか?・・・僕はホラー映画見すぎてるせいですね。感覚が完全に麻痺してる・・・。
半魚 そうそう(笑)。
樫原 この「慣れ」は打ち砕かなければなりませんねー。いつも子供の心で見るようにしなきゃあなあ。
半魚 『神の左手悪魔の右手』は、もうこのころから準備されてましたね。
樫原 おお、そうなんですか。すごいなあ・・・。
半魚 まりんは、機械の音を、キカイ語だって言っていうようになって、かなり危険な状況ですね。このキカイ語は、コンピュータ言語としてのキカイ語(マシン語)ではなくて、いわゆる「キカイの話す言葉」という意味ですよね。
樫原 (笑)これは僕もこれ読んでから冷蔵庫の音などに耳を傾けるようになりましたが、確かに聞きようによっては何か「言葉」のようにも思えるんですよねえ。
半魚 樫原さんも、あぶない、あぶない(笑)。
樫原 人の声に聞こえるんですよー。
半魚 ふーむ(笑)。
樫原 鳥の声もよく、人間の言葉になぞられるじゃないですか?あんな感じ。
半魚 そうか、まあ、そうとも言えますけどねえ(笑)。
樫原 なんか、ヤバイぞ、こいつとか思ってません?
半魚 ヤバヤバ(笑)。
まりんの「そうよ!何かがやって来るののよ!!」ってのは、ほんと上手いところですよね。シンゴがやって来る、とふつうは思う。
樫原 もう、「前兆」(=オーメン)してますよね。
半魚 んー、「オーメン」あんまし覚えてないなあ。教えてください。
樫原 あーいえいえ、全然深い意味はないのですよ。あれ、イギリス映画だったし、そういう意味合いです。
半魚 ああ、なんだ、そういうことですか。ゴシック風てな意味ですかね。
樫原 はい。
◆ Apt :2 前ぶれ
樫原 このトビラ絵も絶品ですね。イギリスの廃墟風な絵で・・・。
半魚 「マトリックス」が、こういう風景を使ってましたよ。
樫原 マトリックス、見てないんです。(笑)
それにしても・・・退院祝いの席とはいえまりんのドレス・・・すごすぎですね(笑)
半魚 なんと言っても、「世界に通用する女性」になってもらわなきゃいけませんからね。
樫原 (爆笑)
半魚 眼をつぶると、「カタカタ」という音が聞こえ始める、という流れ、これも上手い所ですね。背景にガイコツが描かれている。
樫原 楳図先生がイメージをこういう風に形に描くのって珍しくありません?
半魚 んー、どうですかねえ。ちょっと思い出してみてくださいよ。
樫原 唯一、同じ絵柄で使ってるのが「妖怪肉玉」でつぶれた目を触ってる人がその肉のでこぼこから想像するシーンですか?
半魚 なるほど、ちょっと似てますね。ただ、ガイコツってのは、かなり直接的ですよね。イメージ的には、死とか死に神とかですからね。
樫原 それ以外では、思い当たりませんねえ・・・。
半魚 まりんが言います。「うそよ、隠しているわ!!/何か言えない大人の秘密あるのよ!!/おたとえば、父さんが裏取り引きに関わっていたり、お母さんが……!!」。ここでお母さんから平手打ちをくらうんですが、お母さん、何をしてたんですかね(笑)。
樫原 しかし・・「裏取引き」・・・(笑)ここは思わず笑っちゃいました。
半魚 いや、そっかなあ。ぼか、笑わんなあ(笑)。
樫原 子供がそんなコト言うかーフツーって(笑)
半魚 いや、まりんはマセてるんですよ(笑)。
樫原 やましいことがあるからお母さん、きっと殴ったんですよね(笑)あーおかしい!
半魚 はいはい、ここは笑っちゃうところですけど(笑)。
まりんが記憶喪失になったのは、自分で解釈してますね。「でも、なんでそんな重大なことを忘れてしまったかしら?わたし、自分で忘れようと思ったからかしら…?」。この解釈は、正解ですよね。
樫原 これは「蝶の墓」に匹敵する心理を扱っていますねえ。うーん、これが楳図節かも・・・。
半魚 「抑圧」ですね。
ロビンの「オモチャだけでなく、武器まで売っているといううわさじゃないですか。」という発言は、毒のオモチャと関係ありますかね。
樫原 あ、このときおかあさんがまた、叫んでますね!お母さん何か知ってるんだな、やっぱ・・・。
半魚 そうですね。とすると、親父のほうも知ってるわけですよね。
樫原 うん、あまり活躍はしませんが、影で暗躍してそうですね。
半魚 暗躍してる、ってよりは、暗躍されてるって感じの親父ですけどね。
樫原 楳図式漫画の大特徴は「父親」不在で物語大展開ですね。
半魚 そうですね。いても、「まことちゃん」のパパレベルですね。しっかりした男性像それ自体は無くはないが(高也や谷川先生や)、家族となると父親っていませんからね。
樫原 少女マンガの系統をこのあたりは遵守してますねえ。
半魚 少女マンガは、エレクトラ・コンプレックスじゃないんですか(笑)。
樫原 はは、そうかも・・・。
この武器って、そういう意味だったんですね。僕は△菱関係が軍関係のモノを作ってるという真実の意味かと思っていました(笑)
半魚 三◇関係が軍関係のモノを作ってるという現実のことのアナロジーではあるでしょうが、やっぱりここは、ホロン社のことを言ってるのでしょうねえ。
樫原 みたいですね。
半魚 ホロン社と、毒のオモチャとの関係は、明らかにしないといけませんねえ。
樫原 そうですね。
半魚 このあたりから、もう毎回、後にひっぱります。最初に読んだとき、この屋根の上のロボットのおもちゃの大群、いやーな感じ、不思議な感じで「すごいな、こりゃ!」と大変よかったのですが、次を読んで、「なーんだ?たんなるイタズラか」って思い、もうだまされるのはよそうと思いましたね。
樫原 おもちゃのロボットの「カタ カタ」というオノマトペも斬新ですね。
半魚 「カタカタ」じゃないですもんね。「カタ カタ」ですもんね。しかも、血まで流れている!
樫原 力、入ってますね。
おもちゃの中に「マジンガーZ」発見しました(笑)
半魚 ああ、ほんと。「グレートマジンガー」もいますねえ。それから「未来少年コナン」で船長(名前忘れた。波平の声の人)とかが乗ってた、作業用ロボットもいますよ。楳図先生は、むかしは作中に鉄腕アトムを描いたり、けっこうこういういたずらが好きですよね。
樫原 え?そうなんですか?知らなかった!
半魚 アトム、結構描いてますよ。
樫原 どこに描いてるか、こっそり教えてください(笑)
半魚 貸本短編誌『17才』の「キューピット」にありました。ほかにもあったんですけどねえ。
樫原 (笑)ああ、僕が見てない作品だー。
◆ Apt :3 つぶし
樫原 いやーさすが、舞台がイギリスなだけにトビラも教会とかで責めまくってますねー。
半魚 責めまくってますかー(笑)。
樫原 壁のフラスコ画は「十戒」ですかね?
半魚 そこまで読みますか(笑)。んー、しかし、いまいち分からんなあ。なんか、天使が飛んでませんか?
樫原 そうですね。何かを参考に描いているんでしょうね。
半魚 矢部さんが襲われ、これだけ酷い目にあってるけど、ケガで終ってますね。
樫原 矢部さんって「影亡者」のみよ子さんに似てません?
半魚 似てる、にてる。地味系。
樫原 強大な背後霊が・・(笑)
半魚 あはは。ホロン社は、正式には「ジャパン・コンピュータ・ホロン社」って言うんですねえ。そっか、コンピュータ会社なんですね。
樫原 ふーむ・・・。まりんのお父さんはそこの重役ですね。
半魚 やーい、ひっかかりましたね(笑)。外交官ですよ、ガイコーカン。楳図長編は、ほんのわずかな時間をながーく引延ばしたりするので、最初のほうのことをわすれたりするんですよねえ。
樫原 (笑)楳図式漫画の大特徴は父親不在・・・。
半魚 はい、そうすね(笑)。ともかく、影が薄い。
樫原 実は、影で暗躍してた張本人は。パパだったりして・・・。
半魚 そんな甲斐性ないでしょう(笑)。
樫原 はははは!それは・・・ひどい・・・。
半魚 これ、「針の目」のみならず、ラビット社の社員までもが日本バッシング(というか物理的な加害)に出てますね。
樫原 いったい「針の目」ってアジテーターなんですかね?それとも雇われヤクザ(?)みたいなの?
半魚 まあ、いちおう、どこからも独立した単なる愚連隊というか、そんな感じなんでしょう?この時期、イギリスがめちゃくちゃ不況な時期で、こういうフーリガン的でパンクな英国右翼がいっぱい報道されてましたよね。ロンドンのロックのニュースも、70年代程には影響力が無くなってしまった時代というか。
樫原 ふーん。イギリスの治世とか今ひとつ把握してませんね、僕。
半魚 いまは盛り返してるんですかね?僕もよくしらん。ともかく、今は日本が、あの頃のイギリス以下なことは確からしい。
樫原 あ、はは、なるほどねえ・・・。
モデルガンでも持っててよかった・・・ホントに良かったですよー。
半魚 サイレンサー付きですねえ。
樫原 そうそう、楳図先生の「笑い仮面」で克明に「拳銃」の描写があるんですよね。僕はあれからピストルを持つ姿っていうの見ると、おおっと目を見張ります。(あれって持ってる指を描くの難しいんですよ。僕は。(笑))
半魚 そうですか。拳銃は、『漂流教室』の最初にも出てきますが、きっちり描かれてますよね。
ワルサーPPKですね、確かめた。
樫原 けっこう、拳銃マニヤ?
半魚 拳銃マニアってのは、聞いたことないですよね。
樫原 当時はマンガ家仲間で流行ってたりしたのかもしれませんね。
半魚 佐藤まさあきなんかは、マニアだったらしいけど。
樫原 劇画の方ですね?
半魚 ふたたびまりんは「何かがやってくる!!」と言ってますね。
樫原 ここで、楳図先生ははじめて次のお話からお話へとつなぐ同じ絵をApt:4で打ち消しましたね(笑)
半魚 ちょっと、意味、わかりません^^;
樫原 すみません。次の週に続くラストのコマと次に週の1コマはいつも同じだったけどこの「わたしは真悟」はこれを打破してるということです。
半魚 まったく、はじめて、ですかねえ?
すいません、会話になってなくて。
樫原 ははは。
◆ Apt :4 モノ来たる
樫原 トビラ絵雑感シリーズ。女の子のパンツが見えてますね(笑)。「7年目の浮気」のモンローを意識?
半魚 あはは。まさか(笑)。ただまあ、同じ地下鉄ではありますなあ(笑)。風に線を付けてしまうのは、基本的に邪道だとは思うのですけど、でもこの線のうねり具合い、並みの作家には描けませんよね。
樫原 曲線を描かせれば日本一ですよ、楳図先生。
半魚 なーるほど。コンピュータも丸く描く。
タンカーは、本来イギリスにむかってるわけではないのですね。アラブにむかってたんですかね。
樫原 そうだったんですか?知らなかった・・・。
半魚 あとで、そう書いてありました。
ネズミの大群を、シンゴは原油を撒いて、自分で発火して、追払ってますね。かしこい。
樫原 ネズミは「シンゴ」を何だと思って襲っているのでしょうね?ラスト近くは動物や虫と波長が合うのに・・・?