dialogue.umezu.半魚文庫

ウメズ・ダイアローグ(3)

わたしは真悟
(その3)


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樫原かずみと高橋半魚の楳図対談です。この対談は、メールによって行なわれました。

対談期間: 2000-06-06〜07-24
2000(C)KASHIHARA Kazumi / TAKAHASHI hangyo
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▲ プログラム5[まりん]


◆ Apt :1 何か

半魚 「Program 5 まりん」です。

 扉、見開きですね。それに子どもが3人もいますね。

樫原 しかも、本誌掲載時はカラーですね(笑)

『ビッグコミック・スピリッツ』1984年12月30日(no.24)

半魚 マリア像って、手を合わせるんですかね。観音様みたいです。

樫原 ホントだ・・・。クリスチャンて組みますよね(笑)ま、それはそれとして・・・

半魚 空気も異様で、霧の町ロンドンってとこですか。

樫原 霧!うーんそういえば思い出しましたがホラー小説の大家「クライブ・バーカー」もイギリス出身ですが、この人の舞台はイギリスの廃墟跡とか、荒野が舞台が多くて楳図のイメージにピッタリだと思いました。

半魚 楳図自体には、元来は、こういうイギリス的なものよりも、日本の山々や日本風洋館が基本的に似合っていたのですけどね。

樫原 そうですね。昔「エクソシスト」の挿絵を描いてらしたみたいですが、やはり日本顔でしたね。

半魚 んー、まあまあガイジンだったと思いますけどねえ(笑)。

樫原 いやー、どこを見ても「楳図」でした(笑)

半魚 ははは。

 「マリア像の額から血」ってのも、実はたんなるいたずらで、こういうのも、ヤリますなあ。

樫原 最初は「聖痕」(?)みたいな神聖な感じがしてこれから始まる悲劇を否が応でも盛りあげますねえ・・・。

半魚 そうですねえ。

 暴走族「針の目」、かなり過激に破壊(殺人)してますね。ここにも虹が出ますね。

樫原 あ、ほんとだ・・・。この暴走族の惨殺シーンはかの名作「ゾンビ」のパクリですね(笑)

半魚 ああ、そうですか。どこがですか?

樫原 全体の流れが、ゾンビのクライマックスで見せた惨殺のノリです。

半魚 ふーむ、そうですか。

樫原 クールでドライな殺戮!うーん現代的!!

半魚 たしかに、クールでドライです。80年代的というか。このへんは、楳図先生はぜんぜん古くならない人ですね。

樫原 でも、この殺戮は、かなりコメディっぽいですね。アメリカ的というか・・・。

半魚 いやいや、それは「最初は悲劇、二度目は喜劇」ですよ。『神の左手悪魔の右手』もそうだけど、やっぱ最初に見たときは、このスプラッタにびっくりしますよ。

樫原 え?そうでしたか?・・・僕はホラー映画見すぎてるせいですね。感覚が完全に麻痺してる・・・。

半魚 そうそう(笑)。

樫原 この「慣れ」は打ち砕かなければなりませんねー。いつも子供の心で見るようにしなきゃあなあ。

半魚 『神の左手悪魔の右手』は、もうこのころから準備されてましたね。

樫原 おお、そうなんですか。すごいなあ・・・。

半魚 まりんは、機械の音を、キカイ語だって言っていうようになって、かなり危険な状況ですね。このキカイ語は、コンピュータ言語としてのキカイ語(マシン語)ではなくて、いわゆる「キカイの話す言葉」という意味ですよね。

樫原 (笑)これは僕もこれ読んでから冷蔵庫の音などに耳を傾けるようになりましたが、確かに聞きようによっては何か「言葉」のようにも思えるんですよねえ。

半魚 樫原さんも、あぶない、あぶない(笑)。

樫原 人の声に聞こえるんですよー。

半魚 ふーむ(笑)。

樫原 鳥の声もよく、人間の言葉になぞられるじゃないですか?あんな感じ。

半魚 そうか、まあ、そうとも言えますけどねえ(笑)。

樫原 なんか、ヤバイぞ、こいつとか思ってません?

半魚 ヤバヤバ(笑)。

 まりんの「そうよ!何かがやって来るののよ!!」ってのは、ほんと上手いところですよね。シンゴがやって来る、とふつうは思う。

樫原 もう、「前兆」(=オーメン)してますよね。

半魚 んー、「オーメン」あんまし覚えてないなあ。教えてください。

樫原 あーいえいえ、全然深い意味はないのですよ。あれ、イギリス映画だったし、そういう意味合いです。

半魚 ああ、なんだ、そういうことですか。ゴシック風てな意味ですかね。

樫原 はい。

◆ Apt :2 前ぶれ

樫原 このトビラ絵も絶品ですね。イギリスの廃墟風な絵で・・・。

半魚 「マトリックス」が、こういう風景を使ってましたよ。

樫原 マトリックス、見てないんです。(笑)

 それにしても・・・退院祝いの席とはいえまりんのドレス・・・すごすぎですね(笑)

半魚 なんと言っても、「世界に通用する女性」になってもらわなきゃいけませんからね。

樫原 (爆笑)

半魚 眼をつぶると、「カタカタ」という音が聞こえ始める、という流れ、これも上手い所ですね。背景にガイコツが描かれている。

樫原 楳図先生がイメージをこういう風に形に描くのって珍しくありません?

半魚 んー、どうですかねえ。ちょっと思い出してみてくださいよ。

樫原 唯一、同じ絵柄で使ってるのが「妖怪肉玉」でつぶれた目を触ってる人がその肉のでこぼこから想像するシーンですか?

半魚 なるほど、ちょっと似てますね。ただ、ガイコツってのは、かなり直接的ですよね。イメージ的には、死とか死に神とかですからね。

樫原 それ以外では、思い当たりませんねえ・・・。

半魚 まりんが言います。「うそよ、隠しているわ!!/何か言えない大人の秘密あるのよ!!/おたとえば、父さんが裏取り引きに関わっていたり、お母さんが……!!」。ここでお母さんから平手打ちをくらうんですが、お母さん、何をしてたんですかね(笑)。

樫原 しかし・・「裏取引き」・・・(笑)ここは思わず笑っちゃいました。

半魚 いや、そっかなあ。ぼか、笑わんなあ(笑)。

樫原 子供がそんなコト言うかーフツーって(笑)

半魚 いや、まりんはマセてるんですよ(笑)。

樫原 やましいことがあるからお母さん、きっと殴ったんですよね(笑)あーおかしい!

半魚 はいはい、ここは笑っちゃうところですけど(笑)。

 まりんが記憶喪失になったのは、自分で解釈してますね。「でも、なんでそんな重大なことを忘れてしまったかしら?わたし、自分で忘れようと思ったからかしら…?」。この解釈は、正解ですよね。

樫原 これは「蝶の墓」に匹敵する心理を扱っていますねえ。うーん、これが楳図節かも・・・。

半魚 「抑圧」ですね。

 ロビンの「オモチャだけでなく、武器まで売っているといううわさじゃないですか。」という発言は、毒のオモチャと関係ありますかね。

樫原 あ、このときおかあさんがまた、叫んでますね!お母さん何か知ってるんだな、やっぱ・・・。

半魚 そうですね。とすると、親父のほうも知ってるわけですよね。

樫原 うん、あまり活躍はしませんが、影で暗躍してそうですね。

半魚 暗躍してる、ってよりは、暗躍されてるって感じの親父ですけどね。

樫原 楳図式漫画の大特徴は「父親」不在で物語大展開ですね。

半魚 そうですね。いても、「まことちゃん」のパパレベルですね。しっかりした男性像それ自体は無くはないが(高也や谷川先生や)、家族となると父親っていませんからね。

樫原 少女マンガの系統をこのあたりは遵守してますねえ。

半魚 少女マンガは、エレクトラ・コンプレックスじゃないんですか(笑)。

樫原 はは、そうかも・・・。

 この武器って、そういう意味だったんですね。僕は△菱関係が軍関係のモノを作ってるという真実の意味かと思っていました(笑)

半魚 三◇関係が軍関係のモノを作ってるという現実のことのアナロジーではあるでしょうが、やっぱりここは、ホロン社のことを言ってるのでしょうねえ。

樫原 みたいですね。

半魚 ホロン社と、毒のオモチャとの関係は、明らかにしないといけませんねえ。

樫原 そうですね。

半魚 このあたりから、もう毎回、後にひっぱります。最初に読んだとき、この屋根の上のロボットのおもちゃの大群、いやーな感じ、不思議な感じで「すごいな、こりゃ!」と大変よかったのですが、次を読んで、「なーんだ?たんなるイタズラか」って思い、もうだまされるのはよそうと思いましたね。

樫原 おもちゃのロボットの「カタ カタ」というオノマトペも斬新ですね。

半魚 「カタカタ」じゃないですもんね。「カタ カタ」ですもんね。しかも、血まで流れている!

樫原 力、入ってますね。

 おもちゃの中に「マジンガーZ」発見しました(笑)

半魚 ああ、ほんと。「グレートマジンガー」もいますねえ。それから「未来少年コナン」で船長(名前忘れた。波平の声の人)とかが乗ってた、作業用ロボットもいますよ。楳図先生は、むかしは作中に鉄腕アトムを描いたり、けっこうこういういたずらが好きですよね。

樫原 え?そうなんですか?知らなかった!

半魚 アトム、結構描いてますよ。

樫原 どこに描いてるか、こっそり教えてください(笑)

半魚 貸本短編誌『17才』の「キューピット」にありました。ほかにもあったんですけどねえ。

樫原 (笑)ああ、僕が見てない作品だー。

◆ Apt :3 つぶし

樫原 いやーさすが、舞台がイギリスなだけにトビラも教会とかで責めまくってますねー。

半魚 責めまくってますかー(笑)。

樫原 壁のフラスコ画は「十戒」ですかね?

半魚 そこまで読みますか(笑)。んー、しかし、いまいち分からんなあ。なんか、天使が飛んでませんか?

樫原 そうですね。何かを参考に描いているんでしょうね。

半魚 矢部さんが襲われ、これだけ酷い目にあってるけど、ケガで終ってますね。

樫原 矢部さんって「影亡者」のみよ子さんに似てません?

半魚 似てる、にてる。地味系。

樫原 強大な背後霊が・・(笑)

半魚 あはは。ホロン社は、正式には「ジャパン・コンピュータ・ホロン社」って言うんですねえ。そっか、コンピュータ会社なんですね。

樫原 ふーむ・・・。まりんのお父さんはそこの重役ですね。

半魚 やーい、ひっかかりましたね(笑)。外交官ですよ、ガイコーカン。楳図長編は、ほんのわずかな時間をながーく引延ばしたりするので、最初のほうのことをわすれたりするんですよねえ。

樫原 (笑)楳図式漫画の大特徴は父親不在・・・。

半魚 はい、そうすね(笑)。ともかく、影が薄い。

樫原 実は、影で暗躍してた張本人は。パパだったりして・・・。

半魚 そんな甲斐性ないでしょう(笑)。

樫原 はははは!それは・・・ひどい・・・。

半魚 これ、「針の目」のみならず、ラビット社の社員までもが日本バッシング(というか物理的な加害)に出てますね。

樫原 いったい「針の目」ってアジテーターなんですかね?それとも雇われヤクザ(?)みたいなの?

半魚 まあ、いちおう、どこからも独立した単なる愚連隊というか、そんな感じなんでしょう?この時期、イギリスがめちゃくちゃ不況な時期で、こういうフーリガン的でパンクな英国右翼がいっぱい報道されてましたよね。ロンドンのロックのニュースも、70年代程には影響力が無くなってしまった時代というか。

樫原 ふーん。イギリスの治世とか今ひとつ把握してませんね、僕。

半魚 いまは盛り返してるんですかね?僕もよくしらん。ともかく、今は日本が、あの頃のイギリス以下なことは確からしい。

樫原 あ、はは、なるほどねえ・・・。

 モデルガンでも持っててよかった・・・ホントに良かったですよー。

半魚 サイレンサー付きですねえ。

樫原 そうそう、楳図先生の「笑い仮面」で克明に「拳銃」の描写があるんですよね。僕はあれからピストルを持つ姿っていうの見ると、おおっと目を見張ります。(あれって持ってる指を描くの難しいんですよ。僕は。(笑))

半魚 そうですか。拳銃は、『漂流教室』の最初にも出てきますが、きっちり描かれてますよね。

ワルサーPPKですね、確かめた。

樫原 けっこう、拳銃マニヤ?

半魚 拳銃マニアってのは、聞いたことないですよね。

樫原 当時はマンガ家仲間で流行ってたりしたのかもしれませんね。

半魚 佐藤まさあきなんかは、マニアだったらしいけど。

樫原 劇画の方ですね?

半魚 ふたたびまりんは「何かがやってくる!!」と言ってますね。

樫原 ここで、楳図先生ははじめて次のお話からお話へとつなぐ同じ絵をApt:4で打ち消しましたね(笑)

半魚 ちょっと、意味、わかりません^^;

樫原 すみません。次の週に続くラストのコマと次に週の1コマはいつも同じだったけどこの「わたしは真悟」はこれを打破してるということです。

半魚 まったく、はじめて、ですかねえ?

 すいません、会話になってなくて。

樫原 ははは。

◆ Apt :4 モノ来たる

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。女の子のパンツが見えてますね(笑)。「7年目の浮気」のモンローを意識?

半魚 あはは。まさか(笑)。ただまあ、同じ地下鉄ではありますなあ(笑)。風に線を付けてしまうのは、基本的に邪道だとは思うのですけど、でもこの線のうねり具合い、並みの作家には描けませんよね。

樫原 曲線を描かせれば日本一ですよ、楳図先生。

半魚 なーるほど。コンピュータも丸く描く。

 タンカーは、本来イギリスにむかってるわけではないのですね。アラブにむかってたんですかね。

樫原 そうだったんですか?知らなかった・・・。

半魚 あとで、そう書いてありました。

 ネズミの大群を、シンゴは原油を撒いて、自分で発火して、追払ってますね。かしこい。

樫原 ネズミは「シンゴ」を何だと思って襲っているのでしょうね?ラスト近くは動物や虫と波長が合うのに・・・?

半魚 「奇跡前」と「奇跡後」とで、真悟にとっては、「動物」と「キカイ」との敵味方関係が逆転しますよね。そういや、人間以外のモノを敵にしたり味方にしたり、というテーマは『14歳』でも繰り返されますね。

樫原 地球上での生物的扱いは平等だとでも言いたそうですよね。

半魚 真悟、脱皮してるんですね。

樫原 箱を脱ぎ捨ててましたね。大きくなったんでしょうか?

半魚 大きさは、どうですかねえ(笑)。

樫原 でも、こういうトコは動物的で「ロボット」というよりすでに生身の生き物って感じですよね。

半魚 まさに、そうですね。人間でもない、動物でもない。ましてや既に、キカイでもない。

樫原 あらゆるこの世のものを超越した存在・・・神ですか?(笑)

半魚 ていうか、人間以外の存在は、「神」というのも含めて、平等だし、くわえて人間以上の存在である、というようなところがありますかね。

 さとるとまりんの幻想は、小川公園ですね。蜘蛛の巣用のアミ(?)を持ってる。さとるとまりんは笑ってるのに、乗組員はひきつってる。これがホントの、笑いと恐怖は紙一重ですね(笑)。

樫原 このシンゴの幻想を、船の乗組員も見ている、というところはかなり重要な問題を示唆しているような気がしませんか?

半魚 どういうことですか?

樫原 つまり、真悟の妄想がことごとく「現実」として受け止められるという、後々のまりんの核戦争妄想が現実に・・通じると思うのです。

半魚 そうか。そう考えるしか、タンカーの連中の幻覚は理解できませんね。

◆ Apt :5 偶像

半魚 錯覚の箇所で、「や……」「やめてくれっ!!」ってコマの次に、シンゴが、なにかをつまんで「ガタン」とオノマトペがありますね。これ、何をしてるのでしょうか。

樫原 シンゴが思い出というか、妄想にふけるためには電力が必要で、船の電力を使っていた!そしてその電気がそこかしこにスパークしていた!という考えは如何でしょう?

 人が来て、これに感電して(?)たので慌てて電力を切った!とういう推論はどうでしょう?

半魚 んー(笑)。納得しない(笑)。

樫原 では、半魚さんの解釈は如何に?

半魚 ていうか、よく分からんのですよ。でも、よく考えたら、樫原さんのでいいのかも知れませんね。ともかく、乗組員の皮膚が切れてしまうのは何故か?それ自体がよく分からん。なんかが飛んできた、というようなニュアンスで理解してましたが、ちがいますねえ。これは、ケーブルに当って感電したため、ってことなんですかね。なーるほどね。樫原説でだいたい良いようですね。

樫原 でも、ま解釈は読者それぞれが読み取って感じたことがベストなんでしょうけどねえ。

半魚 いえいえ、僕はそういうのキライ(笑)。

樫原 シロクロはっきりつけなきゃ、気が済まんのですねー(笑)

半魚 シロクロつけるという意味じゃなくて(笑)。感じるだけなら、ミミズでもできるから。

樫原 うーん・・・(絶句)

半魚 ありゃりゃ、すんまへん。でもまあ、感じたままでいいんなら、かような対談はしてませんて(笑)。

樫原 ああ、確かにそういう観点からなら、じっくりと思考すべきですね。

 僕は個人的意見なんですが、自分のマンガは出来上がった時点で自分の手から離れた「1個の作品」であると思っているのですよ。だから、僕の意思とかテーマは既に離れており、後は読者なりが見て感じたことがこれからのその人の支え(?)になればいいなあ、くらいでしか描いていないんですよ。(甘いかな)

半魚 作者と作品の関係は、その通りですよ。

 さとるとまりんの額縁入りの写真、さいしょ読んだとき、ぞーっとしました。

樫原 これ、どこから仕入れてきたんでしょうね?

半魚 あはは。プリンタ、内蔵してたのかな。

 シンゴが、「ワタシハシンゴ」と音を発してますね。

樫原 一応「口」らしきものがあるんですよね。

半魚 あるんですよねえ。これ、あんまり良くないと思う。

樫原 ちょっと不気味ですよねえ。声も、機械で作ってるのかなあ・・・?

半魚 そうでしょうねえ。機械の音なんでしょうねえ。で、造形的には楳図的だと思うのですが、シンゴは言葉を喋らないほうがいいと思うし、実際、この後も人間と音声でのコミュニケーションはしてませんよえ。

樫原 海の上というのが、神秘をかきたてたのかも・・・。(笑)

半魚 そうですね。閉所ですもんね。孤島みたいな。

樫原 ちなみに僕はホラーでも「海」が舞台のホラーはお腹がズシーンとくる圧迫感に教われます・・・。「ジョーズ」なんて怖くて観に行けませんでした。

半魚 海の魔物説(樫原)ですね。

樫原 はは、確かに・・・息が詰まる感覚ってゆうんですか?船とか海とか島とかそういう孤立した場所でのホラーはかなりその設定だけでキますね。

半魚 僕は、個人的には、海も恐いけど、沼とかがめちゃくちゃコワイです(笑)。

樫原 沼・・・イコール「肥溜め」というイメージにつながります・・・。(笑)子供の頃、そこに落ちたら這い上がれないと聞いてたのでかなり恐怖でした。

◆ Apt :6 脱皮

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。ウロコの顔ならずミラーボールの顔ですね。(笑)しかし、踊ってる奴等の踊り方・・・ダッセー(笑)

半魚 あはは。右側端の人は、ロボットダンスではないですか。右手前の女はちょっとフラダンス系かな。

樫原 笑わせますね。

半魚 このトビラ、初出だと4色カラーですね。モロ派手です(笑)。それから、初出では「脱皮」じゃなくて「コントロール」ってタイトルでした。

樫原 なーるほど・・・。僕は後者の方がしっくり来ました。

『ビッグコミック・スピリッツ』1985年3月15日(no.5)

半魚 この、「電圧器が襲ってきた」あたりから、シンゴは機械を味方に付け始めるわけですね。

樫原 機械の電気的な内部に侵入して助けを求めるみたいな・・・。

半魚 そっか、そっか。ほぼ、一体化してくわけですよね。

 この船長は「何かいる」と言いますが、シンゴの事をどう思っているのでしょうかね。僕等は、「そりゃ、シンゴがいるよ」と思いますが、船長はいまいち分からず、不安に脅えているのではないですかね。

 シンゴの抜け殻がありますね。

樫原 クマタですね・・・。

半魚 シンゴは、タンカーにアクセスして、無線を自分で操っていますね。

樫原 数字で表現しようとしているのですね。もうこの辺りから奇蹟の連続なんですね?ひょっとして(笑)

半魚 まあ、奇蹟というか、キカイの連合が始っているのでしょうねえ。

樫原 うーん、これが途中からシンゴを敵とみなしてしまうんですよねえ。

半魚 奇蹟以後、なんですね。

 ミルク飲み人形を見て、まりんがそれに反応にしている。

樫原 「ミルク飲み人形は、みんなママって言うようにできてるのよ!!」おかあさん!名言吐いてます!

半魚 このおかあさん、いやですよねえ。ほんと、関谷よりサイテーですね。

樫原 ハハハ!そこまでは・・・(笑)

◆ Apt :7 見えない叫び

樫原 トビラ絵雑感シリーズ

半魚 扉に、いろいろいますね。高原龍ヒドラもいますね。

樫原 あ、ホントだー(笑)。人形に「モスラ」と「エイリアン」発見!

半魚 「ナメゴン」も。

樫原 ナメゴン!なつかしい!ああ「ウルトラQ」また見たくなりましたー。ナメゴンの回ってオチが最高ですよね(笑)

半魚 それと、ドアのむこうの景色がロンドンですね。いやあ、芸が細かいです。

樫原 細密画みたいで楽しいですねー。

半魚 まりん「キカイが私に何かを訴えかけてるのよ!!」と言いますね。

樫原 まだ「子供」の本能でシンゴのことが分かるんでしょうねえ・・・。

半魚 「子どもである母親」としての本能なんでしょうなあ(しみじみ)。

樫原 それにしても、ここの手を離そうと躍起になるシーンは「半魚人」や「猫面」に匹敵するくらい執拗でいやらしい描写ですねえ。

半魚 まるまる二頁半、ロビンがやってますねえ。

樫原 見ていて精神が疲れそうだ・・・。

半魚 でも、ロビンの「ハァハァ」は、疲れて「ハァハァ」、じゃないですよねえ(笑)。

樫原 ははは!触れてうれしい興奮の「ハァハァ」ですね。

半魚 そうそう(笑)。

樫原 そして、ダメ押しがやっと聞けるかもしれないというときにロビンが人形を踏み潰す!ホラー映画の名場面のようであります。

半魚 「なぜ、お前がそこにいる!」みたいな。

 「日本人GO HOME」の落書き、笑えますね。

樫原 あれは楳図らしくない、イラストですね。誰が描いたのでしょうねえ。

半魚 ともかく、楳図らしくない、 これはこれで良いイラストですね。

樫原 センスあふれてます。

半魚 んー、よく思い出すと、「まことちゃん」なんかでたまに出る、手書きのセリフなんかに似てるかも。

樫原 おー、そうですか。じゃあけっこうこういうのギャグで使っていたんですね。

半魚 父の言葉をとどけるために!ここ、なかせますね、やっぱり。

樫原 ここから、次への展開も続き絵をやめてますね。

半魚 そういうパターンは、だいぶ前からありませんかねえ?

樫原 この作品に限ってだけかもしれませんね。昔の習慣を打ち砕きたかった、というか。タチキリもふんだんですし。

半魚 タチキリは、これまでも皆無では全然ないけど、『真悟』以後はけっこう多いですね。

樫原 これは、おそらく当時の他のマンガも影響してるのだと思います。今でさえ、タチキリは少年マンガの常套手段ですからねえ。

 既成概念というもの(常にコマの中で描く!)は常に崩されてゆくものなんですねえ、とつくづく思い知らされたものです・・・。

半魚 でも、楳図先生は基本的に、タテヨコとも等間隔なコマの溝をモットーとしている人だったはずですけどね。

樫原 「おろち」でこの等間隔のコマを何度か試験的に狂わせて使ってますね。そんで、またいつもの楳図割りになって、今度はタチキリを使い始めてますね。

半魚 ふーむ、なるほど。

樫原 僕のマンガも楳図作品に併せて描いてるようなトコありますねえ(笑)

半魚 タチキリは、見開きを使う楳図には向いてますね。「おろち」でもやってますよね。

樫原 僕が最初に「あっタチキリだ」と思ったのは「ギョー」でしたねえ。なーんだ、楳図先生も使うんだ・・・。じゃあ僕も、てな感じでした(笑)

◆ Apt :8 デンキ語(キカイ語)

半魚 この章題、初出やビッグコミック版では「デンキ語」と、間違ってる部分です。

樫原 ああ、そうなんですか!

半魚 ベタ無しのイギリスの風景、部屋の風景です。

樫原 再三、聞きますが何時間くらいかけてこの壁紙描いたんでしょう?見ていて気が遠くなりましたー(笑)

半魚 ほんと、奇妙な感じです。

 まりんの「日本人は世界から抹殺されるの!そのことをキカイは知らせようとしてるのよ!!」は、どの程度正確な認識なんですかねえ。

樫原 「ハタがない」というおとうさんの言葉を理解していたのでしょうね、きっと。

半魚 いやいや、おとうさんの言葉以前でしょう。ともかく、「キカイが知らせている」のですよ。

 「キカイ語って、数字だったんだわ!!」と言いますね。

樫原 がんばれ!まりん解読まであと一歩だ!

半魚 いやあ、記憶回復までは、まだ先が有るぜよ(笑)。まりんの頭の中には、まだモヤがかかってるし。

 まりんがテレビのリモコンをコンセントに差して、応答をしますね。このシーン、凄いです。

樫原 ああっ!そんな無謀な真似までして!1960年代だったらやめてーっ!まりんさん!って女の子から叫び声があがりますよねえ(笑)

半魚 そうそう。デンキ遊びはあぶないです。

 樫原さん、デンキ(家庭用100Vですが)に触ったことありますか?

樫原 何度も・・・(笑)今だに電気は怖いです。

半魚 生まれて2回しかないんですよ。もう死ぬかと思った。たまーに思い出してやりたくなるけど、怖くてできないです。

樫原 (笑)あぶない、あぶない・・・。僕は、工業用の分析機器の修理中にモロ電気の通じてるとこに触ってしまい、半日ほど「しびれ」が治まらなかったコトあるんです。いやー、電気って怖い!と心底思いましたー。

半魚 ああ、そりゃ、本格的だ!

樫原 女の子は大体「電気系統」弱いんですが、さすがまりんは世界に通用する女性だけありますね(笑)

半魚 あはは。

樫原 冗談はさておき。この電気とか電波を使っての交信って絵的にもビジュアル的にもかなり難しいモノですよね。

半魚 さっきの、地下鉄の風みたいなもんですよね。

樫原 イメージ的に捕らえることは出来ますが、いわゆる「放電現象」でしか表現できませんもんね。

半魚 はいはい。

樫原 きっと僕が電話が理解できないというのは、こういう目に見えないけど、端末でキチンと作動するという事実を呑みこめていないからなのでしょうねえ。

半魚 ともかく、それを絵にしてくださいよ。

樫原 うー、難しいんですよねえ・・・。これが!トーンで出来そうなものもあるけど、これは描いたということになりませんからねえ。

半魚 トーンでも、効果次第じゃないですかねえ。

樫原 僕的には、あれは邪道のシロモノですから(笑)(でも、使ってます(^o^))

半魚 ははは。コンピュータ処理とかも、してるじゃないですか(笑)。

樫原 んー、んー、実作品にはまだ施していません・・・(笑)

半魚 そっか、それは失礼しました(笑)。

樫原 いえいえ、その内ヒトコマくらいはやってみたいかも。

半魚 デンキのビリビリは、コンピュータ処理向きかもしれませんよ(笑)。

樫原 確かにそうですね!あのギザギザ感は何かに使えるかも!うーん、大変なご教授ありがとうございます!なんか、イメージが膨らんできましたー。

半魚 そんな、ご教授ってほどでもないでしょうよ(笑)。

 で、デンキですが……。

樫原 昔、モーパッサンの小説「オルラ」で風は目に見えない、けれど存在しているのです。という言葉に近いものを感じます。「電気」って。

半魚 ふーむ。僕は高校生のとき、モルモン教徒のアメリカ人に「神ヲ信ジマスカ」「いいえ。見たこと無いし」「風ハ目ニ見エナイ。デモ、感ジル事ハデキマス。神モ同ジデス」と言われて、ほほうと感心しました。なーんだ、モーパッサンが出典だったのか。

樫原 あはは、それはどうでしょうねえ?

半魚 ははは。

 そして、これがシンゴに届くんですね。

樫原 つい最近、NHKで見たのですが、あらゆる惑星は少なからずそれぞれに電波を発しているというコトです。そう考えるとこの案はいたって事実に基づいている、ということですねえ・・・。

半魚 んー、まあ、それが信号になってるって点で、電波星なんかとはちと違うところではないですかねえ。

樫原 日本が1970年代にそういう電波を飛ばしたでしょ?だから地球以外にもこんな電波を飛ばしてる星があるのではないかと、アレジボ天文台では、日夜それを探しているそうな・・・。ほんと、夢とロマンがあって僕はこういうので働いてる人、好きです。

半魚 交信できれば、いいんすけどねえ。

樫原 世界はパニックになりますね。

半魚 なるなる(笑)。

◆ Apt :9 異物

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。これもベタなしのトビラですね。海岸を歩く二人。衛星の残骸が何かを物語っています。

半魚 ありゃ、これ、人工衛星ですか。僕は、太陽電池で動く、パラボラアンテナかと思ってました。

樫原 ハハ、僕には衛星の残骸に見えましたー。

半魚 毒のおもちゃが、口のなかから出て来るつうのも、すごいですね。

樫原 これは楳図かずおの「恐怖のひびわれ人間」でおっかさんが金庫の鍵を口に入れていたのとおんなじシチュエーションですね(笑)

半魚 なーるほど。しかし、でかさが違う(笑)。

樫原 確かに!

半魚 でました!3人組。これが「日本人の意識」ですよね。

樫原 いやー、これも端的に日本人というものを表してますよねー。群れ成して行動するしかできない日本人・・・。

半魚 がはは。でもまあ、三人組ってのは意味ありますかね。東方の三賢人とか(ちがうか)。

樫原 三位一体のキリスト教説ですかねえ・・・。

半魚 順序はちょっと前後しますが。

 直後の「人類のインベーダー」と言われている日本人の細い目つきを問題にしたあと、オーバーラップ式に、再び3人組が出てきますしね。

樫原 はいはい。日本人を憂えている楳図先生の思いが伝わってきます。

半魚 だから、この「日本人の意識」ってのは、やっぱり日本人(=人類のインベーダー)なんですよね。

樫原 そうですね。ここで問題になるのはさとるのアパートにいた謎の影、これもそうかもしれないというコトになってきますね。

半魚 そうです、そうです。そうでしたね。引越し直前のアパートに人影がありましたね。

樫原 この辺りから「意識」が現実化されていたのかも・・・。

半魚 まあ、存在自体は、結構まえからいたんでしょうねえ。で、その辺りからチラホラと出没し始めた、と。

樫原 伏線をちゃんと張ってあるトコロは心にくいですよね。これだけ長編なのに、よく練られているなあ、と感心します。

半魚 そうですね。でも、『わたしは真悟』って、わりと最後まで考えてないで描いた、って荒俣との対談で楳図先生が言ってました。びっくりというか、がっくりというか。でも、「日本人の意識」については結構練ってありますよね。

樫原 ガガーン!ですね。でもああ言いながらちゃんと考えてたりするんですよね。

半魚 そうですね。まあ、たまーに、破綻かなと思うところもありますけど、それは御愛敬のうちですよ。『真悟』をもって「話があっちゃこっちゃしてる」とか「最後はまりんが全然出てこない」とか言う輩は、なーんも読めてませんよ。

樫原 過去の作品からおさらいすべきですね(笑)

半魚 ところで、彼らは、何をしに出てきたのでしょうか。特に、いま出てきたのは、なぜですかね。

樫原 あのじいさんを追って・・・?

半魚 はい、まあ、そういう事ですねえ。

樫原 それよりも、あのじいさんがどこであの「毒のおもちゃ」を入手してその効力を知ってしまったか!という疑問も涌きますね。

半魚 んー、まあ、そうすると疑問だらけですよね(笑)。ともかく、「毒のオモチャ」は世界中に広まっているわけですよね。たまたま、あのじいさんが手に入れても、おかしくはない。

 ここでちょっと、虹の秘密がわかりますね。毒のおもちゃ・モーターをまわすと虹が出るみたいですね。

樫原 そして、奇蹟というか「悪い」意味での奇蹟が起こる。

半魚 なるほどねえ。この場合は、「悪い」意味での奇蹟だけど、シンゴ(=キカイ)の論理は、人間の倫理を超えていて、善悪の判断は持ってないわけですよねえ。

樫原 ひたすら「人間」を「死」に導くための道具。そういう意味では「原爆」と同じですね。

半魚 キカイは、まず、コワレルものであり、そして同時に、コワスものでもあるのかな。

樫原 扱い方を間違えれば、「毒」にも「薬」にもなるってことですね。

半魚 ああ、なるほど、そうですね。で、むしろ「毒」の要素を楳図は見ているし、「薬」とは言っても、人間に素直に使われるキカイではなく、人間存在を超えてしまうような存在として見てるんでしょうねえ。

樫原 文明がもたらす「狂気」=「凶器」ですよね。

半魚 手袋式の武器って、それなりに造形的面白さが有りますね。

樫原 このあたりは「ビデオドローム」的ですねえ(笑)

半魚 「ビデオドローム」に出てきますか?(結局、見なかったような気がする)。

樫原 拳銃と手が融合するシーンが気持ち悪かったですよ。

半魚 そうですか。クローネンバーグが、ようやく大々的にクローズアップされた作品でしたね。

樫原 この作品でメジャーになったんですよねえ。マンガのネタには欠かせない作品を提供してくれる監督サンです。

半魚 その後の映画は「フライ」くらいしかしらんなー。「スキャナーズ」とか、あと、初期の作品で、宇宙から来たどろどろなのが寄生するやつとか、好きだったんですけどねえ。

樫原 「シーバース」ですか?デビュー作の?。

半魚 タイトル、忘れたなあ。なんか、自転車に乗ってるだんなのシーンから始まってて、ロードムービー風だった。

樫原 「ブルード怒りのメタファー」って作品かなあ?こういうのってやたらと気になるんですよねえ・・・。(笑)

半魚 いやあ、そんなすごいタイトルじゃなかったと思います。しかし、よく御存じですね(笑)。

樫原 一応、好きな映画監督さんのは何をおいても観るようにしてますもので(笑)

 「デッドリンガーズ」はビジュアル的に大好きな作品ですねえ。「マダム・バタフライ(?)」という作品なんか、究極的でした(笑)まさに、先の読めない「楳図」まんがそのものでしたよ。

半魚 ふーむ、みてません。

樫原 ちょっと、おススメです。楳図の精神が肉体に及ぼす影響をモロ描く監督サンですもんね。

半魚 デデ、デッキがなあ(笑)。

樫原 もう、こうなったら買いましょう!僕が毎日ビデオテープ送りますよ(笑)

半魚 はははは。

◆ Apt :10 黄色いカラス

半魚 樫原さんのすきな扉絵ですね。

樫原 や、やめてくださいっ!!!!(泣)とにかく、これを原寸で見たときの感動と背筋を伝わる興奮!

半魚 あはは。樫原さんの弱点かな?

樫原 (ううう)僕はこのトビラ絵で自分の実力を思い知らされたのでありますから!

半魚 がんばってください(笑)。

 ところで、原寸は、1.2 倍くらいあったんですか?

樫原 はい。B4サイズにめいっぱい描いておりました。

半魚 「針の目」VS 「日本人の意識」。この格闘シーンも、なかかな迫力ありますよ。屋根のシーン、「マトリックス」がパクってませんかね(笑)。

樫原 あはは!監督さんは大の日本びいきという話ですからね。

半魚 話題転換。「日本の旗が消えてる」発言のパパですね。パパ、唯一の活躍箇所ですかね。

樫原 ははは!確かにそうですね!

半魚 パパのケガした顔、酷い事になってますね。

樫原 あそこまでボコボコにされてて、ロビンを告発しないのはナゼ?

半魚 結局、なんも分かってないのでしょうねえ。日本が謀略にハメられているってことを。

樫原 で、この家族は最後どうなったか描かれてはいないんですよね。

半魚 そうですね。曲亭馬琴って人は、登場人物を最後まで書かないと気の済まない人でした。こういうの、サイテーと思います(笑)。

樫原 ははは!何となく分かります。

半魚 ロビンは、それ以前から日本嫌悪の発言が多かったけど、実は政治経済クラスでの日本バッシングの張本人の一人だった、というのがここで分る。

樫原 パパ!思ったこと素直に言えばいいものを・・・これだから日本人は・・・(笑)

半魚 あはは。

 ところが、直後に出てきて、ロビンは「日本の味方です」などとのたまう。

樫原 かなりのお調子モノですよね、ロビン。

半魚 てよりは、この程度で日本人がだまされると思ってる、ふてえ野郎です(笑)。でも、だまされるのだなあ。

樫原 楳図の日本人観、モロ出してますね(笑)

半魚 「あなたには世界に通用する女性になってもらうんだから!!」というセリフ、実にうまいですね。ほんと、まりんの母親のいやあな感じをくっきり表現している。

樫原 楳図式に言えば、カエルの子はカエルだからまりんもこんなおっかさんになってしまうという、暗示ですかね?

半魚 ああ、それは哀しい。ともかく、このおかあさんは、楳図作品の中で嫌なお母さんナンバーワンではないですかね。大友君のお母さんも及ばない。

樫原 ハハハハ!さくらのおっかさんより?

半魚 さくらのおっかさんは、熱い人ですよね。まりんの母や大友くんの母は、冷たい人ですよ。

樫原 あのー、大友くんのおかあさんってどんな人だっけなあ?も一度読まなきゃ(笑)

◆ Apt :11 黒い視線

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。子供のクツって何だか、やに変わってません?

半魚 見てますなあ。

樫原 この回だけですね、変わってるの。

半魚 タイトルは、「日本人の意識」達の「視線」を言うんですかね。

樫原 っぽいですねー。

半魚 「針の目」たちは、日本企業の襲撃を画策しますが、標的はホロン社ですね。でも、ホロン社って、おもちゃ会社でしょう。おもちゃ会社を襲ってどうする、みたいな。

樫原 先ずはおまえら「大使館」だろう?みたいな(笑)

半魚 あはは。まあ、ジャパン・コンピュータ・ホロン社ってのは、表向きは子どもむけオモチャ、実はうらで軍需産業、なんですね。

樫原 なるほど、なるほど。

 ところで、この手に武器持ったヤツの名前は「針の目」ですか?本名は、出ませんよね?

 僕的には「リコ」と名づけたりしたんですが・・・。ダメ?

半魚 伊達直人の、虎の穴時代の友達、みたいな(笑)。

樫原 あ、あ、?そうでしたっけ?(笑)

半魚 途中で死ぬんじゃなかったかな。それとも、赤き死の仮面かなんかになってくるんだったっけ?

樫原 んーんー、何かそういう言葉・・・覚えてますよ(笑)

◆ Apt :12 同化

半魚 タンカー、NISSIN号っていうのですね。

樫原 船長、おもらししてます。

半魚 「やっぱりこいつだ」ってセリフがありますが、このへんで、ようやくシンゴの存在を認識したわけですね。

 さて、タンカーのコンピュータとシンゴがつながり、これがタイトルの「同化」なんですね。シンゴは目が四角になって出てきて、おもしろい事をいろいろ言いますね。

樫原 このあたりもコンピュータの概念というか特徴を端的に表していますねえ・・・。

半魚 シンゴと繋がることで、船のコンピュータも「意識」を持つんですね。

 そして、衛星とも同化し、三角になる。

樫原 少し、高度になった!というこの辺りの展開はスピーディですね。

半魚 むかしのコンピュータ・ドラマは、スタンドアロンなスパコンの一元支配という、マザーコンピュータ式発想がすべてでしたが、こうしたネットワーク・コンピュータをドラマにしたものとしては、結構新しいのではないですかね。

樫原 当時、かなりこういう考えは先進的でしたね。僕は外資系コンピューターで働いていましたが、ネットワーク産業って何か、ピンとこないままで終わりました。今はそれが世界を網羅してますもんね。

半魚 なるほど、なるほど。そうでしたか。90年代前半だって、パソコンレベルだと、ネットワーク化するにはめちゃくちゃお金が掛りましたよね。銀行やコンビニなんかのオンラインシステムってのはあったかも知れないけど、かなり特殊な接続形態じゃなかったのですかね。いまのインターネットのプロトコルみたいに、いろんな機種を繋ぐというようなものとは、根本的に発想が違うような。

樫原 確かに、アメリカでは一般的に「ネットワーク産業」が叫ばれていた時代だとは思うんですが、日本ではまだ、LANがある会社が「ひえー!すごい」てなモンでしたからねえ。

半魚 なるほどねえ。

樫原 従って、今「わたしは真悟」は理解できるのだけれど、当時の僕などではとても理解を超えた作品だったわけです。

半魚 そうですね。

 初出当時から、「21世紀マンガ」とか「NEW AGE COMIC」みたいなキャッチコピーが付けられてましたが、たしかに21世紀のほうが『真悟』に追い付いたところが有りますね。でも、まだ追い付いてませんね(笑)。

樫原 永遠に時代が追いつけない作品「わたしは真悟」かも・・・。

半魚 あはは(まあ、笑う所じゃないけど。笑い)。

 船の壁面が「パカッ」って割れて開いて、そこから風が「ゴオッ」ってのも、すごいところです。

樫原 楳図のこの静止画像のような自然描写はとにかく見習うべきものがある!と思います。

◆ Apt :13 進化

半魚 この扉絵、すごいっすね。

樫原 あー、この空中メリーゴーランドはですねえ・・実は僕最近、楳図のアトラクションのある遊園地で乗って、しこたま酔ってしまいました(笑)怖い乗り物です。そういう意味で「すごい」っス!

半魚 空中メリーゴーランドっていうんですか。回りブランコじゃなかったのか(笑)。

樫原 知りません(笑)勝手に名付けました。

半魚 ははは。

樫原 別の意味で、この構図もすばらしい!の一言です。実際に現物を見てデッサンされたんでしょうねえ。

半魚 実際見たか見ないかはどちらでも、ともかくすごい構図ですよ。宗教っぽい飾りが付いてるし、ヒコーキ雲も描いてあるんですね。

樫原 こういう構図も「わたしは真悟」で終わりましたねえ・・・。

半魚 まあまあ。ともかく、スピリッツが隔週刊の頃で、あんがいじっくり描けた作品だったのかもしれませんね。

樫原 再起なるか?楳図かずお!

半魚 だーめ、だーめ、そういう発言は(笑)。

樫原 ときに「新作」の予定とか、あるんですか?いつもスピリッツは目を光らせてみてるんですけど・・・。

半魚 じっくりお待ち申し上げましょう(笑)。

樫原 今の所、新作って「ガモラ」のラストエピソードですよね?

半魚 僕も、それ以後は確認してません。

 世界中のコンピュータにつながりはじめるわけですが、その姿がモニタに映し出されている。シンゴ本体のキーボードのすぐ上にあるモニタにまで。このモニタの位置、むかし平和だった頃の位置と、ちと違いますね。

樫原 あ、そうですか?脱皮したから?かな。

半魚 ははは。そういう問題じゃないでしょう。描き間違いですよねえ。

樫原 (笑)

半魚 シンゴは知りますね。「まりんがあぶない!!」そして「人はなにかを焦っている!!」。そして「わたしが組み立てた毒のおもちゃが世界にばらまかれる!!」と。

樫原 この辺りは世相を反映してますね。生き急ぐ現代の人間を痛烈に批判しているように思えます。

半魚 世相批判じゃなくて、もっと深いものがありませんかねえ。

樫原 んー、「人はなにかを焦っている」というトコはそう読めました(笑)それ以外は、別の意味を示唆してると思います。

半魚 ところで、現在只今のナマの(脱皮した)シンゴ、なんかに似てますよね。「まことちゃん」に出てきたような。

樫原 え?何ですか?

半魚 わすれた。(笑)ミカリンがケーキを作って、友達のところに行って、お人形と交換する。その人形をまことがいじっておかしくする。その人形。

樫原 すみません・・・見てないですね、きっと。

半魚 「プレゼントら」の巻でした。特に似てもなかったなあ。でも、曲がった口と束の髪の毛ってのは、楳図的造形ですよ。なお、この回、まことは冒頭で「さんかくしかくまるバッテン」って歌ってますね(笑)。

樫原 (笑)思い出しました!その歌!なるほど、ここから来てたのか〜。

半魚 これ、「まことちゃん」の歌なんですね。

◆ Apt :14 遮断

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。これ、「クラインのツボ」ではないですよねえ?でも女の子が消えてるという設定でしょうか?

半魚 クラインの壺とは、造形的にちがいますよね。でも、出てきてみたら、「女の子がいない!」という表情っぽいですね。

樫原 楳図かずおの「洞」ですね(笑)

半魚 「洞」は、いい作品ですねえ。

樫原 個人的ながらあれだけ美人の奥さんいながら、どうして殺そうとする?みたいな・・・(笑)短編ながら名作ですね。

半魚 ほんと、『イアラ』シリーズの男たちは、そこだけ理解不能なわがままな連中が多いです。

樫原 飽くなき美への追求を目指しているのかー?あの「イアラ」時代の男たちは。

半魚 あはは。

 まりんがとじこめられるのは、核シェルターですね。これは、イギリス政府が秘密に作ったものだそうですね。

樫原 うーん、すると鉛でできた部屋ですね(笑)

半魚 そうですね(笑)。ともかく、政府が秘密で作った、ってからにはロビンはそういう中枢にも顔が利く人間だと言うことですね。

樫原 いったい、こいつは何者?16歳じゃなかったでしたっけ?

半魚 少年探偵ならぬ、少年フィクサーって感じなんですかね。

樫原 うーん、最期はあっけない死でしたが・・・。

半魚 いやいや、十分しつこいですよ。もう、おなか一杯(笑)。

樫原 出来れば、最期はさとると決戦なんてやってくれるとうれしかったですね。佐渡島あたりで・・・(笑)

半魚 (爆笑)それぞれ、シンゴとミルク飲み人形を手下にして、って?いやー、それだと『少年ジャンプ』になるでしょう(笑)。

樫原 あははは!

半魚 ここで、まりんは全てを思い出す。シンゴが三角になり、まりんの居場所を漸く突き止めようかという時になって、まりんは地表から遮断された場所にとじこめられてしまう。そして、まさにその時に至って、まりんの記憶が蘇るのですね。ああ、なんという冷徹なストーリー!

樫原 楳図ならではの展開の仕方ですね(笑)しかし衛星から見る数々のショットは楳図先生の集大成のイラスト集であるように思えます。ロビンの描写はとにかくうまい!すばらしい!

半魚 この、真上から見た図とかいいですね。東京タワーの時のエレベータとか、ともかく『わたしは真悟』は、高さを持つ作品ですよね。

樫原 あはは、そういわれてみれば。

半魚 うーん、いい指摘だなあ(笑)。高さを持つ作品(笑)。

 ぼくとしては、ここまでのまりんて、あんまりカワイイと思ったことないのですよ、じつは。楳図キャラの美少女の中でも、まりんはじつはあんまり好きじゃない。でも、これ以降、まりんもすこしはかわいいなあというか、けなげだなあ、と思います。

樫原 はは、半魚さんの美少女キャラの1位って誰ですか?

半魚 『偶然を呼ぶ手紙』の洋子や『洗礼』の中島さんの役をやった子(笑)。両サイドふんわりおさげ系が好きなのじゃ〜。

樫原 はーあ、ああいう感じの娘、いや少女が好きなんですね。

半魚 ともかく、まりんはネーミングは変わってるけど、あんまり好きじゃない。現代っ子っぽくて(笑)。

樫原 ははは。僕はおろちに似てて好きですけど・・・。

半魚 樫原さんは、そういう感じの娘いや、少女が好きなのね。

樫原 髪が、ベタじゃない女の子が好きです(笑)

半魚 なーるほどね(笑)。どっちにしても、二人とも髪型にこだわりますね。「イアラ」なんかに出てくる、ヒッツメや和服美人も、いいですけどね。

樫原 ああ、イイですー(笑)。あの頃のは「マンガ」というより「文学」を読んでるような気がしますよー。

半魚 小説でもあり、新しい(そして誰も引き継がなかった)マンガでしたね。

樫原 ああ、やはり「イアラ」見たい!買うべきか文庫本で出るのを待つべきか・・・。

半魚 買ったほうが、いいですって(笑)。

樫原 ・・・はい。(笑)

半魚 ロビンが、まりんの足跡を消したので、衛星から見ているシンゴからも見えないのですかね。

樫原 用意周到な悪のロビン。侮れません。

半魚 この時期は、すでに地上監視の軍事衛星ってのは広く知られてましたよね。

樫原 あ、そうなんですか?僕はどうも疎いみたいです・・・。気象衛星は、よく聞いていたような気がしますが・・・。

半魚 地上監視で、5センチ程度の地表の高低も見分ける、とか言ってましたよ、すでにこの頃。あと、スターウォーズ計画とかもありましたよね。ICBMを撃ち落とすやつ。

樫原 ああ、何だか記憶がありますね、それ。

◆ Apt :15 轟音

半魚 ここは、「まりん危機一髪」とか茶化したら、叱られますかね。

樫原 いやー、実際そうですもんね、誰も怒りはしないですよー(笑)

半魚 いやあ、ともかく、まあこれは幼児虐待に近いですよ。ともかく、ここも執拗なシーンですね。セリフがない。

樫原 エロが滲み出してマス(笑)

半魚 毒のおもちゃの武器と、右手が落ちてくる。

樫原 この辺りからまりんの想像と、現実の境目がシンゴによって形成されてゆくのですね。

◆ Apt :16 地上へ

半魚 「核戦争」ってのは、楳図作品では初めてじゃないですかね。なお、『漂流教室』は核戦争が原因ではないと思います。当時は、大江健三郎とかが、「核状況下の文学」とか言ってた時代のはずです。たぶん、一番、核への危機が叫ばれてた時代。

 ロビンは、翌日になってから表に出るのですね。

樫原 この辺りは、本当に核戦争が起こったかのような錯覚を、読者に植えつけようとしていますね。

半魚 そうですね。目が回りそうですよ。初読の際には、このへん、じつに混乱しました。

樫原 楳図ならではの「ダマシ」の手法ですよね。

◆ Apt :17 孤立

半魚 ここで、「日本人の意識」の実態が徐々に分かり始めるところですね。

樫原 そうか、あいつらは意識としての集合体・・・

 すなわち、「洗礼」でさくらと、おっかさんが作り上げたお医者さんみたいなものだったんですね!

半魚 ふむふむ。

樫原 この黒人「リコ」は漂流教室の馬内みたいですね。

半魚 寝てる雰囲気や吐くセリフなんかも。テレビ放映してるか、してないかだけ違う。で、その「リコ」(笑)が、「黒い服の男」の遺体が、「なかったろ、あるわけねえんだ!」というわけですね。

樫原 彼は、どこまで真実を知っているのでしょう?

半魚 裏事情はぜんぜん分からないけど、ともかく目で見たこととして、毒のおもちゃのことや、「日本人の意識」たちが、殺しても死なない(?)ような存在である事は、分かってるのでしょうねえ。

樫原 なるほど。

半魚 ロビンは、「リコ」の手、結局持って帰ってきましたね。証拠を残さないためですかね。

樫原 さすが、用意周到ですね。

半魚 ロビンのキーワードは、「用意周到」ですかね。

樫原 用意周到、仕上げをごろうじ、そらみたことか!ですよね。

半魚 わはは。

◆ Apt :18 汚れる

半魚 この扉は、もろロンドン。二階立てバスですね。楳図先生は、ロンドンにも取材に行ってたはずですよね。

樫原 いいですねえ・・。(個人的意見)

半魚 なにが「汚れる」なのですかね。地表の汚染ですかね。

樫原 大気汚染の意味でしょうねえ・・・。まだまりんは汚れていないようですねえ。

半魚 はは。そうです、そうです。おもうに、まりんは「受難の美少女」であって、逆にぼくなんか「まりんカワイイ」というよりは、やっぱりロビンに感情移入しちゃうから、あんまりかわいく思わないのかな(あはは)。

樫原 ・・・半魚さん、かなりオジサンになってきてますね。(笑)

半魚 だはは。

 地下シェルターの中で、ロビンの語る世界の終末。楳図かずおは、広い意味で、終末思想の作家ですが、終末に希望を託そうなんていうあまっちょろい考えは持ってませんね。

樫原 そうですね。常にシビアな視点から物事を捉えてる姿勢・・・不気味ですが、魅力あります。

半魚 十分に魅力的であり、人間的であり、賞賛されるべきものですよ。

樫原 うーん、楳図先生。次回作の構想は練っておられるのでしょうか?

半魚 ネタはいっぱいあるんでしょうけどねえ。

樫原 くれないかなあ・・・(笑)

半魚 わははは。

◆ Apt :19 生命兵器

半魚 「第四の兵器」って、どういうことですかね。

樫原 核以上の兵器ってことでしょうか?

半魚 A B C 兵器の次の、第四なんですかね。

 ロビンが、この毒のおもちゃ「=第四の兵器」について、語りますね。

樫原 なんで、おまえがそこまで詳しいんや〜?みたいな?

半魚 外が核で汚されたったのはデマカセとしても、毒のおもちゃの説明は、デマカセではないのでしょう?

樫原 彼は、そこそこの秘密を握っているみたいですね。

半魚 ていうか、かなり知ってるんでしょう?

樫原 そんな天才少年がまりんごときの日本の少女に恋をしてしまう・・・。うーん、このジレンマがまた半魚さんをそそるのですか?

半魚 まあ、恋は盲目ですわな。で、天才少年なわけではなくて、なんかの関係で、裏事情に詳しいってことでしょう。

樫原 それで、途中からは、やみくもにシンゴの世界へ巻き込まれちゃうんですね。

半魚 クマタは、ホロン社の傘下かなんかだった、つうことですかね。そのへんを、外国はすべて知ってた、て感じ。

樫原 うんうん、それ納得できます。

半魚 あとはまあ、傘下じゃなくても、日本の企業ってのは、そんな感じで、全体で連携していて、世界に対して悪い意味で孤立している、てなかんじでもいいんですかね。

樫原 うーん、確かに外国から見た日本て、今もそう思えるのかも。

半魚 今は、経済破綻してるから、そう思われてないじゃないですかね。

樫原 うーん、今はニュースなどでも騒がれないけど、実際のトコロどうなのでしょうね?

半魚 ふーむ。

樫原 しかも、その武器を手にしたときから死相が漂っているという・・・。この先の展開が分かるようになってますねー。

半魚 まりんが外に出て叫ぶけど、「ロビン!!」ですね。ちょっとびっくり。

樫原 これは、もう頼るべきものがこいつ一人しかいないという、とっさのオンナの判断でしょうかねえ?

半魚 崖っぷちで、ユウちゃんを助けてくれて、咲っぺが「大友さん!」というのは、ぼくは納得出来るのですが、この「ロビン!!」はちと不可解ですねえ。

樫原 もう、成さぬ仲になってたんですよ、実は〜。

半魚 生さぬ仲、って意味違うじゃないですか(笑)。

樫原 ははは。

半魚 仰しゃりたかったのは、成した仲ってことですか(笑)。ああ、違うな。まだ成さない仲ってことか(笑)。

樫原 ははは!


● プログラム6[兆し]


◆ Apt :1 悪意

半魚 ここから「兆し」編ですね。

樫原 オーメンです(笑)

半魚 ちょっと扉が違いますね。

樫原 ここから3回に渡ってシンゴの四角→三角→丸をモチーフにして描いていますね。

半魚 そうですね。

樫原 でも、このトビラ線がやたらと太くありません?拡大コピーしてるような・・・。

半魚 ちょっと違いますかね。このへんは、初出を確認してないところだなあ。

 「わたしの造った毒のキカイを持っている」「あいつら」とは、通り過ぎた軍事衛星ですかね。もう、既に世界中に出回って使われているのですね。

樫原 「悪の意識」の集合体では?

半魚 いやあ、そういう抽象的な存在ではなくて、もう「わたしの造った毒のキカイ」って言ってるんですから、具体的に関係があるわけですよ。

樫原 ホロン社が全世界にバラまいたと見ていいんでしょうねえ。

半魚 そうなんでしょうねえ。あるいは、それとも、ほんとはそうではないのに、自意識の芽生えたシンゴが、自意識過剰気味に(笑)、ぜんぶ自分のしわざだと思ってるだけなんですかねえ。

樫原 どうなんでしょうねえ。

半魚 「見たこともないカタチ」ってのは、結局バッテンですね。

樫原 「まことちゃん」の歌でようやく納得しました。あれは「エックス」ではなく「バツ」だったんですねえ。

半魚 荒俣宏との対談で、楳図が「バッテンだ」って言ってましたわ(笑)。でも、エックスでもいいような気がしますね。

樫原 僕は個人的に「Z」が最後の形かなあ、なんて思っていたんですけどね。(単純発想)

半魚 世界中のコンピュータが狂うとは、2000年問題ですね。

樫原 わは!そうとも見えますね。

半魚 田中角栄みたいなのが生き返りますね。この仕組みがよく分からないのですが。

樫原 霊が乗り移ったような?そんなイメージなんですかねえ?目の焦点が合ってないとこが怖いです・・・。

半魚 合ってない、あってない(笑)。

 いや、ともかく、まず問題はその蘇生の仕組みです。田中角栄が生き返るのは分からなくもないんです。角栄本人が生き返ったんではなく、スパゲッティ状の頭にシンゴが入り込んだ、ってことだと理解できます。しかし、次の「マル」になると、もっと分かりにくい。べつに、あたまのケーブルとか通らなくても、シンゴの影響は地球規模で起こってる、ってことですかね。ともかく、シンゴがマルになったこと自体が奇蹟であり、その奇蹟は、生命の蘇生という奇跡を随伴した、ってなことですかね。

樫原 うーん、これはたまたま機械につながっていた人間の中(内部)まで浸透してしまったので、こういう風になったとも思えませんか?そして、この「先生」の知識をすべて習得した、という説は成り立ちませんか?それで、マルになりえたのだと・・・。

半魚 そうか、他のコンピュータや脳に直結して、それがそのまま新しいシンゴでもあるし、また、習得してゆくシンゴでもあるのだなあ。

樫原 うーんこのあたりはちょっと今の僕のフニャフニャの脳髄では説明できません。頭をもっとクールしにて考えますね。

半魚 クールクールで夏がクール、ってありましたよね(笑)。

樫原 エアコンのCMでしたなあ・・・確か(笑)

半魚 すいません^^;。

◆ Apt :2 マル

半魚 で、すべての脳とつながり、マルになるのですね。そして地球にになる。

樫原 シンゴの知識が人間並に増幅されて感情というものが入ってきた瞬間ですね。地球の意識=神の意識に到達したといえば、語弊があるでしょうか?

半魚 たぶん、その「神」という言い方自体に注釈が必要なんだろうとおもいますよ。一般人が言ってるような、漠然とした「神」じゃない。でも、楳図神学は、基本的に人間が何か別のものに進化する、ということを否定したものではないですよね。ただし、単純にそこにユートピアを見出すような思想ではないと思うけど。

樫原 そうですね。神にしても、UFOにしても人間が作りえた創造物であるから、いつかはこれが「現実」として存在するようになるってのは楳図かずおの持論みたいですもんね。

半魚 それ、よく言いますよね。

樫原 何かで話していたんですよね。本かなあ?

半魚 『恐怖への招待』かなあ。

樫原 ああ、きっとそうです!

 人間の意識ってのは「無」から「有」を生み出す能力があり、これが卓越してるのが「日本人」だとも考えられますね。

半魚 日本人が、ですか?

樫原 この作品に関しては、です。

半魚 「無」からですかねえ。

樫原 うーん、つまりは「想像力」がもっともたくましい日本人ちゅう・・・。

半魚 ロビンに非難される日本人のモノマネ文化と、山川草木ロボットにまで感情を見出す感性との、二面性ですかね。

樫原 楳図の場合は現代文明に流される現代人と、現代に関わらずモノへの敬意を払う古風人への皮肉を込めて描いた作品だとも思えますね。

半魚 この時、すべてのものが生き返る、というのも良く分からないところですね。

樫原 これ、キリスト教の「最後の審判」ではないでしょうか?

半魚 そうなんですか。あんまりキリスト教、よく知らなくて。

樫原 楳図かずおのマンガには、そこかしこにあらゆる宗教の終末説が色濃く反映されてるような気がします。

 いわゆるおいしいとこどりですね。

半魚 楳図の終末観については、既成の宗教的発想などを利用しつつも、それからすこしづつ逃れているところがあると思いますね。

樫原 でも、このテの宗教の死生観とか、終末観は題材にしやすいんですよね。今の若い子は宗教の広義は知らなくても、そこに登場する悪魔に名や、人物の名はよく知っていたりします。ゲームの影響ですね。(個人的には奥義も知らずにシッタカするなー!ですけどね)

半魚 80年代以降は特に、「ハルマゲドン」とか「救済」とかキリスト教的イデオロギーが蔓延してますね。楳図の場合は、そういうものを先取りしつつ、そこに救いを求めるような安直さが無いところは、好きだし尊敬します。

樫原 そう!救いがない!っていう発想に基づいているのはすばらしいことだと思います。これは逆を言えば、まだまだ先があってそこに見出せるかもしれないし、まだまだその先もあるかもしれないよ、という表示でもありますもんね。

半魚 いま『風の谷のナウシカ』を読んでるんですけど、実によく出来たマンガなのですけど、結局、ハルマゲドンと救世主の話、ってことで要約されてしまいますよ、これでは。

 ラストは、もちっとシリアスなおちが用意されてました。

樫原 ちなみに僕が今一番好きな考え方は仏教の「無常」という言葉であります。

半魚 「無常」は、いいですね。色即是空空即是色もいいなあ。でも、ボウズは嫌いだなあ(ウメズは好きだけど)。

樫原 なぜ「ボウズ」が嫌いなんですか?

半魚 坊主は、えばってる、わるいやつが多いですよ(笑)。

樫原 ははは!今度「獄門島」(横溝正史原作)のプロット考えてるんですが、ボウズが出てきます・・・。

半魚 全員がわるいやつとは、いいませんけど。

樫原 こうしてみるとニホンゴって奥深いですねー。

半魚 どうしてみると?(笑)

樫原 いやあ、「色即是空空即是色」の意味を改めてじっくり考えたんです。

半魚 中国語ではないか?(笑)

樫原 んもーあげ足とりの半魚さん・・・好きです。

半魚 すんまへん^^;。(笑い)

でまあ、マルになって、すべてのものが生き返ったわけですけど、

 これは、いままで地球それ自体のような生命体は存在しなかったが、こうして存在してみると、今まで想像も付かなかったようなものになっていた、てな感じですかねえ。

樫原 んー、ここでは「死」そのものが意味をなさない、ということでしょうか?生も死も、あるひとつの目的(?)のためだけに動いている、すべてのものが歯車として動いている、というそんなイメージですか?

半魚 ははーん、なるほど。目的が何かとか、目的があるのかとかは、なんとも言えませんが、ともかく、「死」が意味をなさない状態ってのは、言い得ていますよ。

 それで、シンゴは総てを知りますが、まりんの幻想でしかない廃墟を、シンゴは真実のものとして認識してしまうのですね。これはどういうわけなんでしょうかねえ。(単に、ひっぱってみただけですかね?)

樫原 いやあ、これはまりんの「想像」をシンゴが「現実」にしてしまった!というパラドックスではないのでしょうか?

半魚 ただまあ、ちょっとわかりにくいところですよ。とは言っても、仲田くんの妄想が現実の怪虫を生むのだから、楳図ファンとしては文句をつけてはいけないところですかね。

樫原 ハハ、そうですね。

半魚 まりんの幻覚は、一時的なものなんですね。

樫原 しかし、それをやみくも現実として受け止めたから悲劇が悲劇を生む結果になってしまうという、まさに楳図的真骨頂!

半魚 んー、まあ、そうか。ここからあとエルサレムまでは、想像が現実を作る、という楳図式認識論によって理解するのがいいのですかね。

樫原 そう見なくっちゃ!楳図ファンとしては申し訳ないっスよー。

◆ Apt :3 独占

半魚 ここでもしつこく、日本人の意識が出てきます。が、片手の無いやつはいないんでしょうかねえ。

樫原 これは、いわゆる「連鎖反応」なんでしょうねえ?ロビンも、その術にかかった口ですね(笑)

◆ Apt :4 キズ

樫原 ここで、またトビラ絵が元に戻りますねえ。よかった!

半魚 扉絵は、それなりに本文に即してますね。

 この章、なにがキズなんですかね。

樫原 ロビンが受けた・・・(笑)

半魚 シンゴは、まりんの幻覚までも真実として認識しようとしているのですね。

樫原 これが、この章のテーマなのかもしれませんね。ある意味。

半魚 まあ、マル以来、完全にシンゴは人間の脳までネットワーク傘下に入れてしまっているわけですね。だから、ダイレクトにまりんの認識がシンゴのそれになる。

樫原 女性の妄想がある形をとり始めて、それが形として成立したときに、訪れる破局・・・楳図的展開なのかもしれません。

半魚 なるほど、まさに成就することこそが悲劇、といったような。「イアラ」シリーズに典型な展開ですね。「イアラ」シリーズ以外にも、楳図作品の主旋律かもしれませんねえ。

樫原 何しろ、「女性の心理を描かせたら右に出るものはいない!と言われてたくらいですからねえ。(笑)いやー、僕も少女マンガで「女性心理」は研究(?)しましたよー。

半魚 しましたかー。楳図を超える作品を描いてください。

樫原 (笑)がんばります・・・。

◆ Apt :5 声

半魚 この箇所だけ、シンゴの声がまりんに届いているのですね。

樫原 最後の段階で、意思が通じるあたりは心にくい演出ですよねえ(笑)

半魚 その、通じたような通じないような、というあわいですね。

樫原 この「ファジー」さがまたいいんですよねえ、日本人だなあ。

半魚 いやあ、日本人てこととは違うと思いますけどねえ。まあ、西洋的な白黒はっきり付けたがる、というのとの対比の問題ではなく。世界ってのは、混沌なんですよ、そもそも。

樫原 はあ、そう読みましたか・・・。

半魚 そう読みます(笑)。ともかく、「思いが届く(で、よかった。ちゃんちゃん)」なんて安易でお気楽な浄化的ストーリーとは楳図は無縁ですよ。極度の緊張感がありますね。

樫原 うん、分かります。

半魚 ロビンがこれだけ撃たれていながら助かるのは、なぜでしょうか。

樫原 ははは!まあまあ!彼はジェイソンだったんだから!

半魚 しょうがないか(笑)。まあ、現実と想像とが一緒になっているのでしょうね、ここもやはり。

樫原 うーん、するとまりんはやはりロビンにあくまでも阻止して欲しかった!という願望があったからこそ、ああいう展開になったのかも・・・。

半魚 ああ、なるほどねえ。ちと深読みかとも思うけど。そうだったら、聖堂の下から現れるのも、まりんの願望か、ってことになってしまうから。しかし、いずれにしても、なんか、だいぶまりん像が変って来てしまいますねえ、ロビンに対するまりんの在り方は。

樫原 女とはあざとい動物です(笑)

半魚 あははは。でもまあ、そんなにまりんをワル者にしちゃ可哀相ですね。まだ、この段階では「子供」なのであって、「女」(完全な)ではないでしょうからね。

樫原 「妖怪百人会」より。「今はこいつは確かにいいやつだ。だが、こいつらの親を見てみろ!こいつもいずれはこの親のように心がみにくくなるのさ!」(笑)

半魚 高也曰く。「きみのその醜い顔は、醜い心の表われだったのか!」だもんなあ(笑)。

樫原 ははははは!ひどいよ!高也さん!あからさまに言っちゃあ!

半魚 お前の顔付きは、そのえらそうな態度の表われだって(笑)。

樫原 とことん、嫌ってますね(笑)高也さん・・・。

半魚 まあ、ともかく、「大人になったまりん」については、僕は何も発言するつもりはないですっ!(笑)。

樫原 ははは!まりんはこの章で大任を果たしてこれからは世界に通用するレディになることでしょう(笑)

半魚 はは。ここのまりん観は、ふたり、微妙だけど、徹底的に分れますねえ。おたがい頑固ですねえ(笑)。

樫原 (笑)それぞれの女性観の違いですね。

◆ Apt :6 秒読み

半魚 大人への秒読みが始まりましたね。

樫原 この辺りの「カチカチ」という遺伝子の組替えが子供から大人に変わる表現、ものすごい好きな個所です。

 実際に目で見られない分、すごい神秘を感じます。

半魚 楳図は、遺伝子は「カチッ」っといれかわる、と見ているようですね。実際、DNAの塩基は、たんなる組合せだから、たしかに「カチッ」と変るのかもね。ふつうは、塩基が変ると別の生き物になっちまうでしょうが(笑)、たしかに、子どもと大人とは「別の生き物」という根本思想が、楳図にはありますからね。

樫原 この辺は、他の作家には描けないモチーフだと思いますねえ。克明にかつ分かりやすく描いたのはこの作家が初めてではないでしょうか?

半魚 すくなくとも、こういうカタチでは、だれも描けないでしょうねえ。

樫原 僕は、こういう感じではないんですが、人間が蝶のように「蛹」になる期間があって、醜い少女(幼虫)が繭を破って出たらとんでもない美少女になって・・・というマンガ描いたことあります。

半魚 おもしろそうですね。「みにくいアヒルの子」式ではなくて、ですね。

樫原 もーう、ヒサンなラストを用意しておりましたです。

半魚 ほう、ほう。

樫原 原稿ないので、また描き直そうかと思ってます。

半魚 どんな風にヒサンなのか、楽しみだなあ。

樫原 わは!見てのお楽しみちゅうことで・・・。あーでも半魚さんに言わせると、甘い!とか言われそう・・・。

半魚 あはは。

樫原 「変身」という言葉はそれを明確に理論づけられないけれど、遺伝子のメカニズムでそれを表現するってのはやはり、並のマンガ家さんも描くのには、苦労するトコロでしょうねえ。

半魚 実はまあ、僕は遺伝子決定論的な昨今の風潮が実に嫌いなんですけどね(笑)。あと、唯脳論とか(笑)。事象の原因を一元化しようとする、ふるーい哲学の亜流にすぎませんよ。

樫原 唯脳論っていいですねー。昔、天下のNHKで「幽霊」というものは人間の極度の疲労と緊張から脳から何たらという物質が流れ出して「幻覚」を見るのです。なんて科学的に幽霊を論証するようなことですね?

半魚 NHKの科学番組偏重も、嫌いなんだなあ。

樫原 ははは!まあ番組の姿勢は置いといてなかなか興味深い内容ではありましたよ。

半魚 脳生理学はそれでいいとしても、何もおまえに幽霊まで説明してもらいたくないよ(笑)、ってかんじ。

樫原 ははは、NHKも嫌ってますね?高也さんとどっちが嫌いですか?

半魚 んー(悩む)。父というより、兄的なのかな。体操のお兄さんみたいな。

樫原 (笑)

僕も個人的には、そういう神秘的なことは「分からない」世界を残しておいて、人間の心の逃げ道を塞がない方が好きですけどね。死後の世界とか、ね。

半魚 純粋に「分からない」わけではなくて、認識や理解の問題を、脳のメカニズムに因果付けるのが問題なのですよ。

樫原 んー、でも結局は脳がすべてを決定するのではないようなほのめかし方で終わっていましたけどね。

半魚 結局、脳の仕組みが完全に分かっても、意識とか自意識(私はなぜ彼ではないのか、とか)というものがどのように成立するかのメカニズムには到達しないのですよ。ほのめかすんじゃなくて、分からないってことを自覚しろ(笑)。

樫原 でも、NHKがそんなくだらない(?)問題を取り上げて特集したってことは珍しいなあ、と思いましたねえ。

半魚 一般にNHKは、価値観がはっきりしてて、全般的に下らないと思いますけどねえ。

樫原 おおっ!大胆な発言!でも民放のワイドショーよりはマシかと・・・。

半魚 んー、ワイドショーのほうが、ハナからバカな分、まだましかと思います(笑)。まあ、話を戻しましょう(自分でふっといて、すいません)。

 ロビン、オヤジですね。

樫原 「胸がふくらんでいるじゃないか・・・」ですね?

半魚 それそれ(笑)。

樫原 オッサンですよー。もう。(笑)

半魚 おれもロビンも、オッサンかな―(笑)。

樫原 ええ、もう十分(笑)。僕もだけど・・・。

半魚 あはは。

 「わたしはさとるのところにいかなくちゃ!! 子どもが終ってしまう前に」は、感動的なセリフでした。

樫原 うーん、叶わぬ望みを果たそうとしているところ!いたいけでさえありますが、感動の極みでもありますねー。

半魚 以前の僕は、「子どもが如何にして終ってゆくか」という一点集中的に『わたしは真悟』を愛してましたからねえ。

樫原 こうしてみると、色んな視点からこの作品は楽しみますね。

半魚 そうですね。ただ、ふつうのオッサン(笑)だと、「子供が終る」というテーマでは『真悟』を読みませんね。荒俣宏とか、ゴチ英とか、いしかわじゅんとか、岡田斗司夫とか、その他大勢とか。

既に、核の犠牲者が大群でぞろぞろいますね。これって、現実なんでしょうか。

樫原 シンゴが全てをまりんの想像を現実化したために起こった悲劇なんでしょうねえ・・・(?)

半魚 もう、そうですね(妄想ですね。笑い)。

樫原 ちゃんちゃん。

◆ Apt :7 痛み

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。楳図先生は、学校の教室の風景って好んで描きますねえ。原風景のひとつなんでしょうか?

半魚 原風景ですかね。おとうさんは教員だったはずですし。

樫原 そうですねえ・・・。校庭とかいうイラスト集もありましたねえ。

半魚 シンゴは、まりんからロビンを排除するために、核ミサイルまで飛ばします。

樫原 ほとんど暴挙の極み!

半魚 このあたり、まさに「わたしは愚かなキカイ」なんですね。怪獣ギョーとまるっきり同じ存在ですね。

樫原 母を思う子の激しい感情!彼は、フツウの人間の子供よりも母親思いのよい子だ!

半魚 世の中の価値観(正義)というのは多種多様で、それぞれが排他的にぶつかり合うということですね。しかも、それを「同じ人同士だから、わかりあえるはず」などとしないために、人間と違った存在を持ってくる。完璧とも言える構成ですよ。

樫原 うーん。これは難しい論説で僕には分からないっス。

半魚 はは、たしかに、へたな言い方だなあ。すいません。ともかく、人間関係の基本は、ディス・コミュニケーションだっつうことですよ(笑)。

樫原 ああ、なるほど。隔絶されていながらも同じ土俵で生きている、というこの不条理ですね。

半魚 そうです、そうです、そうですよ。まあ、逆にいうと、隔絶されているからこそ一緒に生きていかなくてはならない、ってことだと思いますよ。おんなじだったらオ○ム(中沢新一ふくむ)ですよ。

樫原 磁力みたいなものですね。反発しあうことで平衡を保ってるというような・・・。

半魚 まあ、反発までしなくてもいいんですけど(笑)。

樫原 単純に考えれば、母が子を思う感情の方が強いと思いがちですが、ここでは全く逆のパターンですね。

半魚 そうですね。で、ギョーなんかと同じですね。

樫原 これは、私も両親亡くしてるから分かりますね。失うものが数少なくなると、その失いつつあるものを何とかして守りたい!という感情。

半魚 ふーむ、そうですか。うちはまだ健在ですが、わかります。

樫原 半魚さんは、もう大人ですよ。(笑)

半魚 まあ、そうですね。だいぶ、「子供」を忘れましたね。

樫原 僕もこの頃、やたらと周囲からオジサンよばわりされてます。

半魚 僕は、「若いっすよ、まだ」と言われるのが、逆にしみじみ来てしまいます(笑)。

樫原 ははは!いやー半魚さんは「ボディ的」にはお若いようですよー。(ン年前の写真から想像)

半魚 体力はなくなるわ、疲れやすいわ、記憶力はなくなるわ、……内部の崩壊が進んでます。

樫原 そうなりたくない!という願いから「洗礼」は生まれたのですね(笑)

半魚 あはは。僕はこのまま朽ち果てても、しょうがないと思ってます(笑)。

樫原 そ、そんな若いみそらで・・・もったいない・・・。

半魚 「わたしはキカイ。愚かなキカイ……。まりんのためならなんでも傷つけてしまう。」のセリフは、ちょっと説明過剰で、不要にも思いますね。でも、シンゴが自身をそう自覚することこそ、タイトルに有る「痛み」なんですかね。

樫原 そうですね。僕の心境からはここには、見送る側の心痛な気持ちを訴えているように思えます・・・。

半魚 この人工衛星からカケラを飛ばす、という趣向はすごいですね。

樫原 このあたりはサスペンスフルで、名作映画を見ているかのようなめまいさえ、します(笑)

半魚 ほんと、めまいですね。楳図作品は、めまいですよ(笑)。

樫原 ヒッチコックも真っ青な手法ですね。

半魚 『わたしは真悟』は、「高さ」だなあ(笑)。

◆ Apt :8 タイム・リミット

樫原 この回はカラーですね?

半魚 かなあ。BC 版の2色カラーは、雑誌掲載時とは必ずしも対応してないみたいですけどね。

樫原 そうなんですか?何か意図があってのことなのかなあ?僕は純粋にここ、カラーだったんだーなんて楽しんでましたが。

半魚 ここのまりんは、ほんと一生懸命で、なかなか健気ですよ。

樫原 「ロビン、どうやるの!? 結婚のしかたはどうすればいいの!?」のコマのマリンはキレイです(笑)

半魚 さとるの似顔絵がかわいいです。

樫原 わは!あまり似てないのもご愛嬌ですね。

半魚 いやいや、けっこう似てますよ。

 そんでもって、ロビン。よりによって、そこから出てくるか〜、おまえ〜。みたいな(笑)。

樫原 もーう、彼はジェイソン以上のしつこさですね。だからスネークか?

半魚 スネークですよね。

◆ Apt :9 神の空から降りたまう

半魚 この章だけ、タイトルが長いですね。

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。「DO NOT BREAK」って休むな!ってことですよね?何で灰皿が置いてあるの?

半魚 「DO NOT SMOKE」で灰皿が置いてある場合は、「ここでタバコを消してください」って意味でしょうけどねえ。

樫原 ああ、そういう意味だったのかー(バカなオレ)

半魚 んー、樫原さんの納得の意味が、わからんですよ〜。

樫原 はは、あまり詮索しないでください。休むな!アンドここで吸ってたタバコは消せよ!っていう標識だと、納得したのです。それまでは、休むな!でもここでタバコ吸ってもいいよ〜ってな捉え方だったので。

半魚 あー、なるほどねえ。イギリスとかの会社には、そんな標語が貼ってあったりするんですかね。

樫原 あーそうかも・・・。それで気に入って絵に入れたのかも。

半魚 でも、ここのロビンは、いいですよ。

樫原 「そんなに僕が嫌いか?」「嫌いよ!」

 ああ、この時点でまりんは既にロビンの方が好きになっているのですねえ・・・。

樫原 さとるはもう思い出の中に生きている虚像なんですね。まりんにしてみれば・・・。

半魚 んー、そこまで言いますか。微妙なところですよねえ、たぶん。ロビンのことは、意識として嫌いではある、無意識においても嫌っている。しかし、ロビンを拒絶する根拠であるさとるへの想いは、たしかにもう虚像ではある、ということかもしれませんね。

樫原 いやー、これは見事に「女性の心理」を知ってる楳図の言葉だろうと思います。「おろち」の「秀才」(?)かな、あれでこんなに憎しみあってきた別の母親と息子、だがあれほど反目しながらも心ではお互いを求め合っ ていたのだ!というまさにあのシチュエーションではないでしょうか?

半魚 んー、「秀才」と同じまでのレベルですかね。しかし、そうかも知れませんね。「秀才」も、なんかハッピーエンドに読めていましたが、実際は、ものすごい憎悪の関係なわけですからね。

樫原 僕は、あの親子がこれからまたどういう人生を歩むのか、興味津々でした。とにもかくにも、僕はこの作品を読んで楳図のストーリーテラーの非凡なることと、読者をいかにあざむくかの手法を学びましたねー。(笑)

半魚 いやあ、だから、そこを最後を描かないのがいいんすよ(笑)。読者を消費的な安心で包みこまない。でも、そこに至る過程まではきっちりと描く。

樫原 これ、重要ですね。僕も参考にしよう(笑)

半魚 『氷点』って読んだことないんですけど、犯罪者の子供をとっかえっこするって、「秀才」に似たストーリーなんですかね。先日、テレビでやってました。

樫原 曽野綾子の名作ですね?あれ、そういう内容だったんですか?たしか島田陽子が出てましたよね?

半魚 三浦綾子じゃなかったなあ。どっちにしても、読んでないのですけど。

樫原 それ、同一人物です。結婚して三浦綾子さんになりまして・・・。

半魚 あれ、そっか。三浦朱門だもんなあ。いや、でも、曽野綾子とは違う人なんですよ、『氷点』は。顔が違ってた。

樫原 え?でしたっけ?違う人?

 それは、ともかくまりんはあれだけのマセガキ(失礼)だから、ロビンの気持ちなんかとうにお見通しだったのかもしれません。さとるのことは、まだ当然好きですが、ロビンの自分に寄せる愛情も心憎からずほくそ笑んでいたのではないでしょうか?

半魚 んー、「ほくそ笑んで」まで言ったら、ちとまりん可哀相。って、あれ?立場が逆転しましたね。

樫原 (笑)

 女性は男性をランク付けで「好き」の度合いを決めるそうです。1番目は「さとる」2番めは「ロビン」そして、今は頼れそうなのは2番めしかいないから「邪魔」だけど、まあ妥協してやるか?ってなまりんの「女性心理」は如何でしょう?あのおっかさんの子供だから、当然それくらい頭、働くんじゃないのかなーと思ってとんでもない意見を述べてみました。

半魚 とんでもない、とんでもない(笑)。まあ、まりんとそのおっかさんを一緒にしたら、可哀相ですよ。で、ともかく、女と子供と、別な生き物なんだから。ランク付けは、1次元的な世界把握の方法であって、幼い人間の思考方法としては有ると思いますよ。僕も、中学くらいまでそうだったもん(笑)。

樫原 いやー、男と女は違いますよー。(笑)僕は某20代女性から「私は一番目に好きな人、二番目に好きな人って区別はつける。そしてそれに合わせて生きていける」って言われたときは仰天しましたもん。

半魚 樫原さん、何番目だったの?(笑)

樫原 僕は番外(笑)

半魚 なんか、おもしろすぎるオチですよ(笑)。

樫原 ダリの男のようにもてない青年でした(笑)

半魚 そりゃ、自意識過剰なだけ、って意味でしょう(笑)。

樫原 女は周囲と迎合し、融合する術を身に付けているのではないでしょうか?それだけ、たくましいから「女」やっていけるのでしょうねえ。「子供」でも「男」と「女」というのに差はないと僕は踏んでます。(笑)三つ子の魂百までも、ですね。

半魚 まー、いろいろじゃないかなあー。そんな決め付けなくても。ただまあ、迎合・融合できなくなって、熟年離婚とかがあるのでしょうけどね。

樫原 女ってのは複雑そうに見えて、実はすごく単純なものです。(笑)今しか見えてない生き物です。三十ン年間の「女性」探訪からの結果です

半魚 (笑)

 差別とか蔑視と見做される発言には、職場上、敏感なので、一応、同調しないようにしておきます(笑)。

樫原 あー、僕はこういうことはズバッと言いたい性格なんですよー。だいたい今の女性は周りがチヤホヤするからズに乗ってるようなトコあるので、それがどうも気に入らないのです。もーうエバって持論を展開してるトコで鏡持ってきてその顔でこんなこと言えるのか〜?って見せてあげたいですよ。(これは僕の独り言と思ってくださいね)

半魚 まあ、そういうかわいそうなブスやバカはいますね。「ブス(バカ)のくせに、よく言うぜ」と言ってやりたいけど、それをいっちゃあおしめえよ、と思いますから、黙ってますけどね(笑)。

樫原 ストレス溜まりません?

半魚  あんまりたまらんなあ。してみると、そもそもそういう会話するような相手がいないだけなのかな。(笑)

 衛星のカケラがロビンの位置を狙って落ちてきますが、これって、最初にロビンが「聖地エルサレムの神の前で結婚しよう」と言ったのをシンゴが聞き、地上を走査して位置を突き止めたんですね。しかし、時間までは計算出来ないような気がしますけど。

樫原 因果の法則を、地球規模的に計測して・・・(笑)という解釈は如何でしょう?

半魚 なんすか?その因果の法則って(笑)。

樫原 「X−ファイル セブン」3巻をご参照下さい(笑)非常に面白い内容でしたよ。

半魚 はあ、そうですか(笑)。

樫原 でも、この衛星のカケラが十字架なのも何かを象徴してますね。

半魚 そういや、そうですね。

樫原 実は楳図かずおはクリスチャン?

半魚 ぜったい違うと思う(笑)。

樫原 はは、でもかなりお詳しいと思います。

半魚 御本人に、直談判して聞いてみたいですね。

樫原 これも、質問に加えたい事柄ですね(笑)

半魚 でも、考えてみれば、「せんせい、クリスチャンですか?」とかきいちゃったら、僕のプライドは許さんなあ(笑)。

樫原 ははは。それは僕も聞けないですね。「オカルト系がかなり好きですよね?」くらいでしょうねえ。

半魚 いや、「オカルト」(=超常現象)自体は、そんなに好きじゃないんじゃないか?楳図の好む「奇蹟」は、もっと人間レベルの事柄で、霊界でもなければ既成の神によるものでもないと思いますねえ。

樫原 ふむー。哲学が入ってるんですね・・。

◆ Apt :10 永遠がうまれる

樫原 トビラ絵雑感シリーズ。ここで砂時計の底を割ってる絵を描いていますねえ。これは「時」の観念を超越した「永遠」という意味も含まれているみたいですね?

半魚 そうか、「砂のない砂時計」が永遠なんですね。

 シンゴが言いますね。「子どもが終ってしまったら、さとるの言葉が伝えられなくなる!!」って。ここについて理屈を言うのは不粋もはなはだしいけど、でも言っておくと(笑)、子どもでなければ出来ないこと、子どもで無ければ聴けない言葉、と言うことなんですね。

樫原 そうですね(笑)

半魚 そして、ああ感動の瞬間ですね。んー、ぼくはやっぱりここが、『わたしは真悟』の最高の場面だなあ。

樫原 まさに永遠に語り継がれる、回ではないでしょうか?この作品においても永遠を生んだ瞬間だと僕は思いますね。

半魚 シンゴの、最初の自己犠牲がこの部分なんですね。そして、これが後半の「虹」の奇蹟に連なってゆく。

樫原 まりんの細胞に触れたことで真悟は幸せだったでしょうね。

半魚 「幸せ」とか、そういう感情が存在するレベルじゃないでしょう。細胞に触れることで、まりんの組織ていうかDNAレベルでの情報を獲得して、シンゴが初めて実体化したわけですよ。

樫原 うーん、ちょっとセンチメンタル表現したんですが・・・。厳しいっスねー。

半魚 オセンチな樫原さん、うっふん(笑)。

樫原 てへっ!

半魚 あはは。

樫原 まりんはさとるの言葉をシンゴからちゃんと受け止めたのでしょうか?それとも・・・・?

半魚 そうなんですね、届いていないんですね。それに、まあ、本人さえそれを覚えてないのですしねえ。「永遠」とは言いながら、単純に持続するする永遠ではないのですね。瞬間に結実するような永遠なのですね。

樫原 でも、まりんの記憶の片隅にいつまでも永遠に残っている、ような。(楳図先生曰くの「潜在意識」に植え付けられたシンゴの姿)

半魚 いやあ、どうかなあ。僕は、その永遠の瞬間にまさに、まりんの子供が終ったという、ただそれだけ、なのではないかと思うのですけどね。もう、そこでまりんは終った、と。

樫原 別物って感じですね?

半魚 加えて、結実瞬間から、忘れて(壊されて)ゆくものなんですね。その、忘れる時に、奇跡を起こしてゆくわけですけど。

樫原 ああ、そういう考え方好きです。生クリームを舌で転がしてその甘さを堪能してる間もなく溶けてなくなる・・・といった感じでしょうか?(すごい譬えですね)

半魚 後味の問題ですかね。

樫原 うーん、どちらかというと、刹那的な・・・。

半魚 ふーむ。

樫原 そして、冒頭のマリア像から流れる血が、ラストで現実となって終わる。んー、最高の終わり方ですね。

半魚 なるほど、そういうことだったのかあ。

樫原 と、僕は踏んでいたのですが・・・。ドラマによく見られる常套手段ですよね。最初と同じ形で最後を持ってくる。「輪」になって終わりみたいな?

半魚 はいはい。ヘビみたいな、ね。

樫原 ウロボロスの輪っていうんですよね、こういうの。

半魚 んー、やっぱり「永遠」になっちゃったな(笑)。

樫原 はは、結局そういうことですかねー。

半魚 それと、「0.003秒」を、これだけのページで描いたマンガ家って、たぶん今までいませんよね。

樫原 ははは!江川達彦氏(?)「東京大学物」が何かそれらしいのを描いていたのは笑って見てましたが。

半魚 すでに言ったかもしれませんが、ロビンにとってもまりんの姿が消えるんですね。ロビンも同じく、子どもを持つ青年なのか。単に、子どもが好きな変態なだけか。

樫原 スネーク・・・キリスト教では悪魔の代名詞ですね。

半魚 なるほどね。ともかく、僕は、『漂流教室』なら大友くん、『わたしは真悟』ならロビン、ですね(笑)。

[その4へつづく]


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対談期間: 2000-06-06〜07-24
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