dialogue.umezu.半魚文庫
ウメズ・ダイアローグ(1)
怪獣ギョー
樫原かずみと高橋半魚の楳図対談です。この対談は、メールによって行なわれました。対談期間: 2000-01-15〜02-01
2000(C)KASHIHARA Kazumi / TAKAHASHI hangyo
[はじめに]
半魚 今回は、樫原かずみと高橋半魚の1回目の楳図対談として、『怪獣ギョー』を取り上げます。僕としては、この作品については、どんな破綻があろうとも、絶対に誉めきってみせます(笑い)。それから、資料的にもこれは意識的に収集しているので、だいたい完璧のはず、わはは。 既に樫原さんの方からも、次のような発言が有って、ほぼまんべんなく『ギョー』の注目点を語っておられます。
「怪獣ギョー」あたりを掘り下げて研究してみましょうか?
「ガモラ」「原始怪獣ドラゴン」を経て「コンドラの童話」「ウルトラマン」の「怪獣ヒドラ」にまで手を伸ばさなければならない作品ですね。この作品は「まことちゃん」時代の作品でもあり、そのカラーがところどころにでていますねえ。かと思えば友達のいない孤独な少年が怪獣を友達にするあたりは少年誌独特の匂いがあり、円谷みたく怪獣が街を破壊シーンありの、まさに楳図怪獣モノの集大成みたいな意気込みの感じられる作品ですねえ。
エンターテイメントといえば、ありきたりなカンジがしますが、楳図の場合はそこに怪獣と人間の絆のようなものを浮き彫りにしているあたり、泣かせます。人間にも「心」があるように、怪獣や獣にだって「心」はあるのだ、という視点は楳図ならではのヒューマニズムではないでしょうか?なんかもう、先に全部言われちゃった感じですね(笑)。 それから、話は変わりますが、『マンガ地獄変3トラウマヒーロー総進撃』(水声社・1998年)って、持ってますか?
樫原 持っていません。とんでもないタイトルですねー(笑)
半魚 タイトルはともかく、ひどい本なんですよ〜(笑)
樫原 ははは。何となく分かるような・・・。
半魚 この本が『怪獣ギョー』も取り上げていて、僕の覚えてるかぎりで『ギョー』を論評してるのはこの本くらいなのですが、で、案外鋭い指摘もあるのですが(小松方正とか)、しっかしともかく、じつにケシカランのです(笑い)。せめて、このレベルの読みをキチンとクリアーしておきたいと思っとるのです、です。
樫原 読んでみたいですねー。
半魚 適宜、引用してみましょうか。
樫原 ぜひ、お願いします。
半魚 1頁程度なのですが、全文での引用はケチがつくとこまるので、適宜ということで。半分以上、あらすじを書いてるだけなのですが……。
静岡県の漁港に住む病弱な小学生・靖男は、その色白さゆえに「怪獣〜!」と呼ばれて苛められている腑抜け。そんな根性なしがある日途方に暮れて海岸を散策していると、奇妙な魚を見つける。オコゼと小松方正が合体したような 「ギョ〜」と鳴く怪魚を、靖男はギョーと名付けて秘密の洞窟で飼いはじめる。
とまあ、こんな具合いで始まります。的確な分析・批評以前に、面白いツッコミとか言い回しとか、ハスに構えた見方とか、楳図作品をそういう受け狙いのネタにしている態度が、実に気にいらないのですがね(笑)。樫原 小松方正とオコゼの合体では、小松方正がかわいそうやんけー(笑)
半魚 あはは。小松方正のほうが、ですか。
樫原 小松方正は、どちらかといえば「関谷」の方があっているような・・・(笑)
半魚 んー。関谷は、もうちょっとギョロ目の人にやってほしい(笑)。でも、小松方正は楳図ドラマに出て来そうな気がしますね。
樫原 「イアラ」系のビッグコミックのオトナの悪役でぜひ!
[作品との出合い]
半魚 僕が最初に読んだのは、サンコミの「こわい本シリーズ」が出て、それを買ったときで、1984年。ぼくはもう20歳でした。随分遅い出合いでなさけないんですが、ほんとに感動しました。いまでも、楳図短編では、イアラ・シリーズとは別の魅力として、これに勝る完成度のものは、ない!と言い切りますね。
樫原 僕も、その頃だったと思います。A5サイズの「こわい本」ですよね?
半魚 いやあ、サンコミの新書判のほうです。
樫原 単行本の方ですか?豪華な装丁を施した・・・?
半魚 いやいや、だからあ〜。ここを見よ。[こわい本]。僕がキチンと新刊で買い始めたのは、サンコミ版からで、豪華本のほうは存在もしらなかったですよ。
樫原 す、すみません(笑)分かりました。
あの豪華本の方はなんと説明していいものか判断に困っていたんです(笑)。実は、この豪華本なんですが買い揃えたにも関わらず、家の姪(当時まだ小さかった)がぐっちゃぐっちゃにして消えてしまったという事実があります。(泣)その母親にいたっては存在していたという事実すら記憶にないという・・・。
半魚 うわあ、あの貴重な本を!!
樫原 もう、貸すんじゃなかった!なんて嘆いていました(笑)
半魚 本は貸すもんじゃないっす(笑)。借りっぱなしにしてる僕が言うんだから、ほんとです。
樫原 (爆笑)
そのとき読んだ感想は楳図かずおにしちゃ、線をわざと変えて描いてるなあ、でも、怪獣は楳図ばりの絵だなあ、と思っておりました。解説か何かで覆面何たらとして・・とあったので納得しましたが・・・。
半魚 やっぱり、線が違いますかねえ。
樫原 うん、わざとでしょうけどラフに描いてるなあと思いました。どことなくアメリカンコミック的な・・・。
半魚 アメコミ的ってのは、なんとなくわかります。バタ臭い絵柄ですよね。でも、いまになってみれば、もろに「楳図かずお」ですよねえ。
樫原 ははは!はい、そのとうりですね。どう見ても楳図ですね。
半魚 まあ、結果論かも知れないけど、「ここが楳図!」という点を挙げてみませんか。
- 冒頭の「靖男が怪獣と呼ばれるようになったのは」から、「だれだ?おまえ」までの5コマ、これなんかイアラ的では。
- トゲ付き、ヒゲ付きのオノマトペ。
- 手足を動かしてる際の動線。(「怪獣!死んじまえ!!」のコマなど)
- やたら多い、ピックリマーク。
樫原 (爆笑) そういわれて見ると確かに(笑)。
では、僕は「絵」的なとこから。まず、
- 海と空の描き方
ですね。特徴のある雲の影や、海の波模様は楳図ならではの描き方だと思います。
半魚 なーるほど。これは樫原さんならではなあ。
樫原 それから、この「ギョー」ではあまり使われていませんが、
- 背景を円で囲んでベタで塗りこめる方法もよく見受けられますよねえ。
半魚 それそれ(笑)。僕は、望遠鏡と命銘してます。児嶋都もたまに使ってます。
樫原 望遠鏡!(笑)いいネーミングですねえ。しかしこれ何の効果があるんだ?と思いません?
半魚 これ、背景を描かずにすむし、単行本化する際の切貼りで役に立ったんじゃないかと思てますが。
樫原 あと、たまーに使う曲線によるコマ割り。これ僕はすごく好きなんですよねえ。曲線定規で描くんでしょうけど、他のまんが家も使っているのかな?
半魚 そうそう、『アゲイン』なんかにもありますよね。これ、すごく奇妙ですよね。
樫原 『ねこ目小僧』〜『アゲイン』あたりに多用してましたねえ。
そして、何よりも特徴のあるのは、
- アップになったときのギョーの目の描き方は楳図ですねえ。これだけは誰が描いても描けない目でしょうねえ。人間の目は意識して変えてますが、さすがにギョーの目は「楳図」してました(笑)
半魚 ふーむ、なるほどお。そういうのは、僕は分からなかったなあ。今度から注意してみます。
[大怪獣ドラゴン]
半魚 これ以前、ぼくは『漂流教室』『おろち』『イアラ』と、あと買い始めてた「こわい本シリーズ」の諸作品を読んでた程度なのですが、それだけでもスゴイと思ってたのに、こんな作品がまだまだ残ってたのか!とびっくりしました。
樫原 (笑)
僕はこの前に「原子怪獣ドラゴン」を読んでいたので、ああ、あの亜流だな!というイメージしかありませんでした。
半魚 「ドラゴン」は、ぼくは「ギョー」の後によみました。
樫原 ああ、では感動しますよねー。
しかし、「原子怪獣・・・」よりは内容の濃い作品だなあ、と思います。
半魚 そうですね。中味がぎっしりつまってる感じですよ。 ところで、「ドラゴン」ですが、これ一般に「原子怪獣」と「大怪獣」と、2種類の呼び方が有りますが、その差はどこにあるんでしょうか。 僕は、初出が原子怪獣なんだとばっかり思ってましたが、初出は「大怪獣」ですよ。
樫原 そうそう、僕も「ウメカニズム」のリストを見ておや?と思いました。 ハリウッド映画「原子怪獣現る!」になぞらえてつけたのですかね?
半魚 ありゃりゃ、それ知りません。
樫原 しかし、これは「ゴジラ」以前の映画なんだけどなあ・・・。 何でこのネーミングなのだろう?
そもそも、あのドラゴンは元々海に住んでいた恐竜という設定ですよね?
半魚 ウルトラシリーズ以前、ゴジラとかしか怪獣が居なかった時代ですよね。やっぱり、恐竜のイメージから脱却出来てない、という感じがします。でも、それを伝説的に組み替えて(ってのも、大映風ですかね)、現代とクロスさせるあたりは、いいと思います。
樫原 その、発想はすごいですよね。そういう壮大なストーリーを考えて描いてみたいものです(笑)
[アゲイン]
樫原 ああっ!すっかり忘れてました! 「怪獣ギョー」「アゲイン」「大怪獣ドラゴン」の貴重な資料をどうもありがとうございます。(「アゲイン」を真剣に読み過ぎてしまい続きが見たくてしょうがない・・・(笑))
半魚 「アゲイン」は、小学館のスーパーヴィジュアルコミックス(SVC)版だと、雑誌通りの、各編づつで読めるのですよね。改変してある秋田デーコミ版と、異本です。小学館も、なかなか味なマネをするなあと、少しだけ感心。まあ、版権の問題が絡んだのだろうし、実際の仕事は子会社だと思います けど。
樫原 結局、コメディなので買わなかったんですよねー、発売された当初に・・・。 僕は「アゲイン」のラストでおじいさんが夕焼けを見上げるシーンだけは鮮明に覚えていますねえ。あのページは見開き2ページで、カラーをモノクロコピーしたようなアミ目の絵でしたよねえ。あれは原本にもあるんでしょうか?
半魚 夕日を見てるシーンは、初出雑誌には無いみたいですね。
樫原 じゃあ、後筆なんですねえ・・・あのシーンは印象的でした。
半魚 言われて、昨日『アゲイン』読み直しましたよ。感動して泣きそうになりました(笑)。が、まあこの話題はまた別のところででも。
樫原 ・・・「アゲイン」やっぱ買っておけばよかった・・・。
半魚 それで、「ひびわれ人間」と「残酷の一夜」ほかも、ありがとうございました!これ、コピーする際に、ホチキスのところからベリって破ってコピーして下さってませんか。大変、すいません。
樫原 楳図のトコだけ切り離そうとしたんです。そしたら見事に破れてしまい、慌てましたが、えーいもういいやー!と思いカッターで切りました(笑)お気になさらないでください。自分の浅はかな行動の結果です。
半魚 雑誌は、切放しちゃいけませんよ!! (笑)。置く場所に困っても、そのまま残して置かねば。持っている人の、社会的義務です(笑)。
樫原 す、すみません・・・怒られちゃった。 高価だったので本そのものは本棚に祀っていますので・・・。 んで、楳図のだけは大事にファイリングしてます(笑)。
半魚 一応本棚に祀ってはあるけど、やっぱ大事なのは楳図って。まあ、そうですね。
樫原 いやあ(笑)決して他の漫画家の師匠に敬意を払ってないわけではありませんので・・・。
半魚 そうそう。『少年サンデー』なんかだと『ダメおやじ』を読み込んでしまいます(笑)。
樫原 僕は「平田弘治(?)」という方の時代劇マンガ(笑)。 この人、デッサンがしっかりしてて好きだなあ・・・。
半魚 平田弘史でしょう! 当然、うまいっすよ。「?」つけちゃ可哀相です(笑)。
[楳図作品の大人]
半魚 ハチャメチャなまでのスペクタクル性、失われた少年の日の孤独と哀感、しかし哀感べったりにならないクールな笑いの要素。少年を失いつつあった大人だったからこそ、理解できたんだとも言えますから、20歳で出会ったこと自体には、まあしょうがないというか、むしろ良かったと慰めておきますよ。初出時期は小学校1年生ですから、もし読んでたとしても全然分からなかったでしょうし、それに、ぼくは20歳になるまでは、実に愚かな子供でしたし、なはは。
樫原 んー、分かりますねえ。子供の頃に読んだなら、街の破壊シーンが面白くてたまらなかったと思いますし、20歳の頃なら少年に感情移入できて、なぜ大人はこんなにまで、子供の心を踏みにじるのだろうか、と怒りの気持ちが先走り、
半魚 そうそう、なぜ楳図作品に出てくる大人って、ああいう、蹂躙型が多いんですかねえ。
樫原 楳図的には「大人」ってのは裏切るものだとレッテルを貼ってるような気がしますねえ。理性とか理論ばかりが先にたって「心」を優先させないような・・・そんな風にとらえてるような気がします。
半魚 楳図の生命観ですねえ。
樫原 30歳越えた今なら怪獣ギョーの心情に感情移入できるという(笑)。
半魚 ギョーの心情に、ねえ(笑)。いやあ、わかりますわかります。でも、今まで僕はあんまりしませんでした。
樫原 「ためらいながら・・・海に帰って行った」なんて件はギョーの気持ちが分かりすぎてかわいそうでしたよ(笑)
半魚 あはは。そうですね。
[初出]
半魚 この作品は、1971年『少年サンデー』の36、37号に2回の連載として掲載されました。扉は両号とも4色カラーで各1頁、これは単行本では使われていませんが、なかなか良い。本文はモノクロ、31頁と41頁です。
樫原 おお!巻頭カラーだったのですか?すごい!見てみたい。
半魚 わっはっは。この日のために、HPの楳図リストに載っけてありますよ。ぜひ、見てくださいよ。
樫原 重ねがさねありがとうございます。(笑) しかし、あの表紙のすばらしいコト!もーう涙が出そうですよ! やはり、トビラ絵集とか出さないですかねー(笑)
半魚 「トビラ絵集」って言う人は、多いですね。僕も、楳図に絵にはしびれますが、一方で、ストリーテラーとしての楳図のほうに、より興味を持ってしまっている面もありますけど。まだまだですね(笑)。
樫原 僕は、ぜいたくながらその両方を堪能したい!というのが本音です。 絵柄を確認しながら、お話を読む・・・んーなんて僕的に優雅な時間でしょうか。
半魚 ずるいずるい!僕だって、両方を堪能したいですよ。
樫原 ははは、ぜひ一緒に官能の世界へ(ヤバいって、それ!)
半魚 だはは。
[単行本]
半魚 本作が読める単行本は、朝日ソノラマの「こわい本シリーズ」の諸本。愛蔵版、サンコミ、ハロウィン少女コミック館、楳図かずお恐怖文庫の各冊です。初出と完全に同版ですが、ページ起こしはまったく逆です。セリフも、ギョーの世話をしてきて帰って来た靖男が靴を脱ぎながら言う「どこでもないよ/ちょっと/…………」というところ、初出だと「フフフ」と付いているところだけ、すこし違います。
樫原 なるほど、なるほど。「フフフ」というのは覚えてます。フフフ。
半魚 おお、それはすごい。
ともかく、「アゲイン」なんかが単行本化する際にはかなりかきかえがあるのと違って、古い(? 71年だけど)作品といえど、80年代になって単行本化されたものは、ほぼ初出通りに読めるかんじですね。
樫原 ありがたいことです。それにしても同時に描いたというのは、ホントにすごい!しかもタッチをあそこまで変えて・・・。 楳図=宇宙人説を立てた方がいいかも・・・(笑)
半魚 あはは、宇宙人ねえ。見た目はそうかも知れませんね。とか言って、茶化してしまいますが(笑)。
樫原 噂では、農薬のある野菜は食べないそうですよね、紅茶がお好きなようで、しかも外国語に堪能・・・これはX-ファイルばりの典型的宇宙人の姿では?
半魚 英語がしゃべれる宇宙人(笑)。スタートレックですね。
樫原 耳がとがってないか?楳図って?
[今夜もおみっちゃんに脱線]
半魚 これ、一般に「覆面作家として執筆」とか言われてますよね。初出で確認するまでは、あれこれミョーなことを想像してたのですが、これ、懸賞付きで誰が描いたか読者に当てさせる、って趣向なんですね。
樫原 みたいですねえ。わざとらしからぬ絵を描いてますが、僕も初出で見たら分からなかっただろうと思います。楳図に似せようとして、誰かが描いたのだろうと思うに違いありません。
半魚 そうなんですかねえ。線は、ラフなかんじで、青年誌風にちかい(イアラとか)けど違う、という感じですかね。その後、「ギョー」という作品に慣れてしまうと、すーぐわかる、わかんないやつはアホだ、とか言いたくなりそうですけど。たしかに、僕も、ちょっと異質な感じは受けました。
樫原 似てるからこそかえって疑いたくなるというのもありますよねー。僕は「おみっちゃんが・・・」とか「人形少女」のタッチも実は非常に違和感を感じるんですよね(笑)
半魚 あの、少女マンガ然とした絵柄ですか。やまびこ姉妹シリーズなんかのタッチとも違いますよね。たぶん、「なかよし」や「フレンド」など、メジャー誌だったってことも関係してるかも知れませんけど、詳しいところは僕も分かりません。貸本時代でも、ともかくころころ絵柄が変ってますから。
で、僕も正直言って、いまいちですね。「おみつ」は、デーコミで描き変えられてる絵柄のほうが、ずっと恐いし(笑)。
樫原 怖すぎる!(笑)描きかえるのが流行だったのでしょうか?
ますますこの芸当は人間離れしている・・・。
半魚 「おみつ」なんかは、気に入らないのか、描き直したみたいですけど、絵柄にだけ言えば、あれは、やっぱり単純に、現在のタッチでしか描けない、ってことじゃないのですか(笑)。
樫原 しかし、あれは同じ個所を3度ほど使い回してますよねえ・・・。
半魚 初出の貸本『虹』があって、『なかよし』の附録ではトレイスして、デーコミで切貼り・後補筆、って感じですかね。
樫原 気が遠くなる作業だ〜(笑)思い切ってリメイクしちゃえばよかったのに・・・。
半魚 そうそう。それを思えば、やっぱりリメイクよりも切貼りのほうが、楽なんでしょうかね。
樫原 読むヒトが読むと実験的漫画にも見えますねえ・・・。
半魚 んー、そこまではホメないけど(笑)。
樫原 あらら、そうですか?僕は使いまわしの微妙な違いを見つけることに生きがいを感じてたりして・・・。誤植で「でていけ」が「ででいけ」になってたのには笑っちゃいましたが・・・。
半魚 あはは。こんど、ちゃんと探してみます。
樫原 んで、母親のモノローグの意味深なこと・・・。
半魚 手紙のモノローグ?
樫原 そうです。「不安がピンで貼りついたように取れないのでございます」なんて・・・。子供には不可解なモノローグですよねえ。
半魚 なーるほど。ともかく、あの「ございます」調だけで充分恐いですからねえ。
樫原 (笑)。ギャップに悩まされる読者が多いのでは、と思います(笑)。
[怪獣談義にもどる]
樫原 でも、くどいようですがあの怪獣は楳図しか 描けないキャラです(笑)。
半魚 あはっはっは。そうですねえ。ところで、でも、造形的に、僕としてはカッコワルイ怪獣、という印象が否めないのですけど。
樫原 いえいえいえ!(断固として)あの造形はかの「ウルトラシリーズ」の有名な怪獣どももおそれいるような抜群のキャラクターだと思います。
あれが、実写で作られたとしたら怪獣「ガマクジラ」や「ゲスラ」でさえもたちうちできない有名な海獣として、後生までも名を残すのではないかと・・・!(かなりオーバーかな)
半魚 そっか。たしかに、ガマクジラやゲスラと較べれば、特に遜色無いですね。ザザーンと較べても。でも、ペスターやタッコングと比べてしまうのだなあ。
でも、「オコゼと小松方正の合体」とか言われると、むかつきますね(笑)。
樫原 小松方正がかわいそうだって!(笑)オコゼとか、らんちゅうの変形までは納得しますけどね。
半魚 ふーむ。たしかに、つらつら見ると、あの時代の怪獣にしては装飾的ではありますね。サイケっていうのなら、時代的かもしれませんが。
樫原 ああ、たしかに1970年代はそういうのが流行ってましたねえ。
しかし、「ガマクジラ」は制作の段階で「世にも恐ろしい怪獣を作れ!」という命令があったという笑い話があるそうですよ。
半魚 そうですか。そう言われると、世にも愛らしいガマクジラも、特別な存在に見てくるから、不思議です。
樫原 愛嬌があって、しかも悪いヤツじゃなきゃいけない「怪獣」の存在ですね。
[その他の資料]
半魚 そのほか、初出を見ると、アオリやらにいろいろ面白いことが書いてあります。「担当記者より」も、わざとらしくいいです。記者名は無記名ですが、白井勝也ですよね。
樫原 これは、よく分かりません(笑)
半魚 ぜひ、資料をご覧ください。:-)
樫原 はい、早速(笑)
[「怪獣モノ」としてのギョー]
半魚 まずは、僕は哀感的な面でばっかり読んでたもので、あんまり認識無かったんですが、これ、怪獣モノですよね。このへんは特に、樫原さんに語って頂きたいところです。
樫原 待ってました!冒頭にも書いた通り、この作品は「原子怪獣ドラゴン」の焼き直し的な作品だと考えられます。それなりに尾ひれをつけ、肉をつけて面白く仕上げています。楳図の「怪獣」ものには決まって「怪獣」の「人間」に対する愛情がある、と言えます。
半魚 ふむふむ。
樫原 これはひいては「心」を持たない無機質なものが「意志」を持つという「わたしは真悟」にまで伸びてゆく楳図まんがの体系ではないでしょうか?
半魚 なーるほど。そうですね、たしかに鋭い指摘だ。
半魚人やへび女、たまみ、等々のような、人間から異類へ変化するものと、また、どのような関係にあるか、という点としても、面白いですね。
樫原 うーん。これはある意味での通過儀礼ではないかと、僕は思っているのです。
たとえば、人間が「蛇」や「半魚人」や「アリ人間」に変貌してゆくのは、ひとつには子供から大人になる「第二次成長期」ってあるじゃないですか。それを極端なモノにすげ替えた結果のような気がするのです。
半魚 なるほど。「変化」という恐怖については、楳図も何度も語っていますね。
樫原 大人になりたくないピーターパン症候群の子供(=楳図の目)から見た大人というのは、「ヘビ」であったり「クモ」「ネコ」などの化け物として映るのでは、と思うのです。
半魚 うんうん。そして、結局、自分もそうなってしまう恐怖にさらされている。