山伏 同行天狗 天狗の眷属 大天狗 役行者 伎楽 童子

ワキ、ワキツレ次第「法のためにと篠懸は。/\。山 又山を分けうよ。ワキ詞「これは峯入先達の 山伏にて候。此度又諸国の山伏達を伴ひ。 唯今峯入仕り候。道行三人「葛城や。高間の嶺の

朝朗。/\。花かと見えて白雲の行衛は るけき岨伝なべてとふべき旅にやは。我 は法にとそみかくだ。苔の筵もいとはじ や/\。

シテアシラヒ出「とう/\たる山路いづれの時か つきん。けつ/\たるけいせん到る処に きく。風えうせいを動かしてさんけんぽ ふ。いづれのしようくわし雲をへだつ。 あら心すごの山洞やな。 ワキ詞「我観念の眼の前には。三密の月すみ やかにして。れう/\とあるをりふしに。 忽然と。来る者をみれば。さも不思議な る人体なり。シテ「御身いくばくの法力を 得。かばかりの慢心を具足せし。其妄念は いかならん。ワキ「うゝ扨は心得たり。我 が行力を妨げんとて。魔軍の霊鬼来りた るな。おろかなりとよ法性の。月は曇ら ぬ山陰に。現れ出づる名を名乗れ。シテ「我 は此山陰に年経て住める大天狗の眷属な り。まづ此よしを師匠に申さん。其程は こゝに待ち給へと。地「夕の雲も凄じく。 /\。嵐はげしき高根より。らうせいの高 声にて帰れといへば谷嶺も。響き渡れる

山びこの。呼べば答へて失せにけり/\。 来序中入間「。「山河草木震動し。風は木を折つて 磐石を崩す天狗だふしに。心も乱るゝば かりなり。早笛、地「不思議や高根に吹き乱 れ。/\。嵐木がらしうづまくと見えしが 現れ出でたる大天狗の。はしあし剣の如 くにて両眼日月に。異らず。イノリ、ワキ三人「旋陀 摩訶〓{口へん+魯}遮那。娑婆多耶吽多羅化漢満。旋陀 摩訶〓{口へん+魯}遮那。娑婆多耶吽多羅化漢満。旋陀 摩訶〓{口へん+魯}遮那。娑婆多耶吽。地「行者の加持 力隙もなく。/\。もみ掛け責めかけ祈り 給へば。其時窟は鳴動して。大石左右へ 聞くと見えしが各眷属二行に坐して役の 行者は現れたり。ツレ「汝知らずや我はこれ 今末の世に至るまで。仏法を守護し衆生 を守る。開山役の優婆塞なり。地「大天狗 はこれを見て。/\。驚き高根にのぼら んとするを。伎楽童子は追詰め給ひ。散々 に打ちふせ苦を見せたまへば梢にすがり

遥の谷に下りけるを。 ツレ「行者は御杖を取直し 地「汝知らずや 神国たり。など仏法に妨をなしゝと。怒 り給へば今より後は仏法を守護神となる

べしと。約諾かたき岩根をかけり。かけ り。行けば。優婆塞は眷属を伴ひ給ひ。 優婆塞は眷属を伴ひ給ひて。また巌窟に ぞ入り給ふ。