周穆王 臣下 女(ナシニモ) 西王母 侍女(謡ナシ)

ワキサシ真ノ来序「有難や三皇五帝の昔より。今この 御代にいたるまで。かゝる聖主のためし はなし。地「その御威光は日のごとく。 ワキツレ「その御心は海のごとくに。地「豊に 広き御恵。ワキ「天に輝き地に満ちて。 上歌「北辰の共ずる数々の。/\。満天に 廻る星の如く。百官卿相雲客や。千戸万 戸の旗を靡かし。鉾を横たへ。四方の門

べにむらがりて。市をなし。金銀珠玉。光 を交へ。光明赫奕として日夜の勝劣見え ざりけり。かゝるためしは喜見城。その 楽も如何ならん。/\。 シテツレ二人一セイ「桃李ものいはず。下おのづから 市をなし。貴賎交はり。隙もなし。シテ「面 白や四季折々の時をえて。草木国土おの づから。二人「皆これ真如の花の色香。妙

なる法の三つの心。うるほふ時や至りけ ん。三千年に咲く。花心の。をり知る春 の。かざしとかや。下歌「いざや君に捧げ ん。いざ/\君にさゝげん。上歌「すめら ぎの。その御心は普くて。/\。隙行く 駒の法の道。千里の外までうへもなき道 に至りて明らけき。霊山会場の法の場。 広き教の実ある。君々たれば誰とても。 勇ある世の。心かな/\。 シテ詞「いかに奏聞申すべき事の候。ワキ「奏 聞とはいかなる者ぞ。シテ「これは三千年 に花咲き実なる桃花なるが。今此御代に いたり花咲く事。たゞこの君の御威徳な れば。仰ぎて捧げ参らせ候。ワキ「そも三 千年に花咲くとはいかさま是は聞き及び し。その西王母が園の桃か。シテ「なか なかにそれとも今はものいはじ。ワキ「さ ればこそそれぞことさら名におふ花の。 シテ「桃李ものいはず。ワキ「春いくばくの

年月を。シテ「送り迎へて。ワキ「この春 は。上歌「三千年に。なるてふ桃の今年よ り。/\。花咲く春にあふ事も。たゞこ れ君の四方の恵。あつき国土の千々の種 桃花の色ぞ妙なる。 ロンギ「さては不思議や久方の。天つ少女の まのあたり。姿を見るぞ不思議なる。 シテ「疑の。心なおきそ露の間に。やど るか袖の月の影。雲の上までその恵。あ まねき色にうつりきぬ。地「移ろふものは 世の中の。人の心の花ならぬ。シテ「身は 天上の。地「楽に。明けぬ暮れぬと送り 迎ふ年は経れど限もなき。身の程も隔な く。真はわれこそ西王母の。分身よまづ 帰りて花の身をもあらはさんと。天にぞ 上りける天にぞ上り給ひける。中入間「。 ワキ三人上歌待謡「糸竹呂律の声々に。/\。しらべ をなして音楽の。声すみわたる天つ風。雲 の通路。心せよ。/\。下リ羽後シテ出地「面白や。

かゝる天仙理王の。来臨なれば。数々の。孔 雀鳳凰迦陵頻伽。飛び廻り声々に。立ち 舞ふや袖の羽風天つ空の衣ならん天の衣 なるらん。後シテ「いろ/\の捧げもの。 地「いろ/\の捧げものの中に妙に見え たるは西王母のその姿。光庭宇をかゞや かし。黄錦の御衣を着し。シテ「剣を腰に さげ。地「剣を腰にさげ。真〓{糸+嬰}の冠を着。 玉觴に盛れる桃を侍女が手より取りか

はし。シテ「君に捧ぐる桃実の。地「花の 盃取りあへず。中ノ舞「。 地「花も酔へるや盃の。/\。手まづさへ ぎる曲水の宴かや御溝の水に。戯れ戯 るゝ。たをやめの。袖も裳裾もたなびき たなびく。雲の花鳥。春風に和しつゝ雲 路にうつれば王母も伴ひ攀じのぼる。王 母も伴ひ上るや天路の。行方も知らず ぞ。なりにける。