尉翁 千歳 三番叟

〈初日〉 翁「とう/\たらり/\ら。たらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁「処千代 までおはしませ。地「我等も千秋さむら ふ。翁「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任 せたり。翁「とう/\たらり/\ら。地「ち りやたらりたらりら。たらりあがりらゝ りとう。千歳「鳴るは瀧の水。/\。日は 照るとも。地「絶えずとうたりありうとう とうとう。千歳「絶えずとうたり常にとう たり。千歳之舞。千歳「処千代までおはしま せ。地「我等も千秋さむらふ。千歳「鶴と 亀との齢にて。処は久しく栄え給ふべし や。鶴は千代経る君は如何経る。地「萬代

こそ経れ。ありうとうとうとう。千歳之舞。 翁「総角やとんどや。地「尋ばかりやと んどや。翁「座して居たれども。地「参らう れんげりやとんどや。翁「松やさき。翁や 先に生れけん。いざ姫小松年くらべせ ん。地「そよやりちや。 翁ワカ「凡そ千年の鶴は。万歳楽と諷ふた り。又万代の池の亀は。甲に三極を備へた り。渚の砂。索々として朝の日の色を朗 じ。瀧の水。冷々として夜の月鮮かに浮ん だり。天下泰平国土安穏。今日の御祈祷 なり。在原や。なぞの。翁ども。地「あれは なぞの翁ども。そやいづくの翁とうと う。翁「そよや。翁之舞。翁「千秋万歳の。歓 の舞なれば。一舞まはう万歳楽。地「万歳 楽。翁「万歳楽。地「万歳楽。

〈二日目〉 翁「とう/\たらり/\ら。たらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁「処千 代までおはしませ。地「我等も千秋さむら ふ。翁「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任 せたり。翁「とう/\たらり/\ら。地「ち りやたらりたらりら。たらりあがりらゝ りとう。千歳「千歳ましませ千歳ましま せ。松の梢に。地「鶴や住むなり。あり うとうとうとう。千歳之舞。千歳「鶴や住む なり鶴や住むなり。千歳「君が千歳を経ん 事も。天つ乙女の羽衣よ。千歳ましませ 松の梢に。地「鶴や住むなり。ありうと うとうとう。千歳之舞。翁「総角やとんど や。地「尋ばかりやとんどや。翁「座して居 たれども。地「参らうれんげりやとんど や。翁「松や先。翁や先に生れけん。いざ

姫小松年くらべせん。地「そよやりちや。 翁ワカ「凡そ千年の鶴は。万歳楽と諷ふた り。又万代の池の亀は。甲に三極を備へ たり。渚の砂。さく/\として朝の日の 色を朗じ。瀧の水。冷々として夜の月鮮 かに浮んだり。天下泰平国土安穏。今日 の御祈祷なり。在原や。なぞの。翁ども。 地「あれはなぞの翁ども。そや何くの翁 とうとう。翁「そよや。翁之舞。翁「千秋万 歳の。歓の舞なれば。一舞まはう万歳 楽。地「万歳楽。翁「万歳楽。地「万歳楽。 〈三日目〉 翁「とう/\たらり/\ら。たらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁「処千代 までおはしませ。地「我等も千秋さむらふ。 翁「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任せ たり。翁「とう/\たらり/\ら。地「ちり

やたらりたらりら。たらりあがりらゝり とう。千歳「万歳ましませ。万歳ましませ 巌が上に。地「亀や住むなり。ありうとう とうとう。千歳之舞。千歳「亀や住むなり 亀や住むなり。千歳「君が万代経ん事も。

天つ乙女の羽衣よ。万代ましませ巌が上 に。地「亀や住むなり。ありうとうとう とう。千歳之舞。翁「総角やとんどや。地「尋 ばかりやとんどや。翁「座して居たれど も。地「参らうれんげりやとんどや。翁「松

や先。翁や先に生れけん。いざ姫小松年 くらべせん。地「そよやりちや。翁ワカ「凡 そ千年の鶴は。万歳楽と諷ふたり。又万 代の池の亀は。甲に三極を備へたり。渚 の砂。索々として。朝の日の色を朗じ。 瀧の水。冷々として夜の月鮮かに浮んだ り。天下泰平国土安穏。今日の御祈祷な り。在原や。なぞの。翁ども。地「あれは なぞの翁ども。そやいづくの翁とうと う。翁「そよや。翁の舞。翁「千秋万歳の。歓 の舞なれば。一舞まはう万歳楽。地「万歳 楽。翁「万歳楽。地「万歳楽。 〈四日目〉 翁「とう/\たらり/\ら。たらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁「所千代 までおはしませ。地「我等も千秋さむら ふ。翁「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任

せたり。翁「とう/\たらり/\ら。地「ち りやたらりたらりら。たらりあがりらゝ りとう。千歳「鳴るは瀧の水。鳴るは瀧の 水日は照るとも。地「絶えずとうたりあ りうとうとうとう。千歳「絶えずとうた り。常にとうたり。千歳之舞。千歳「君の千歳 を経ん事も天つ乙女の羽衣よ鳴るは瀧の 水日は照るとも。地「絶えずとうたりあ りうとうとうとう。千歳之舞。翁「総角やと んどや。地「尋ばかりやとんどや。翁「座し て居たれども。地「参らうれんげりやとん どや。翁「千早振。神のひこさの昔より。 久しかれとぞ祝ひ。地「そよやりちや。 翁ワカ「凡そ千年の鶴は。万歳楽と歌うた り。又万代の池の亀は。甲に三極を備へた り。渚の砂。索々として朝の日の色を朗 じ。瀧の水。冷々として夜の月鮮かに浮ん だり。天下泰平国土安穏。今日の御祈祷な り。在原や。なぞの。翁ども。地「あれは

なぞの翁ども。そや何くの翁とうとう。 翁「そよや。翁之舞。翁「千秋万歳の。歓の舞 なれば。一舞まはう万歳楽。地「万歳楽。 翁「万歳楽。地「万歳楽。 〈法会舞〉 翁「とう/\たらり/\ら。たらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁「処千代 までおはしませ。地「我等も千秋さむら ふ。翁「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任 せたり。翁「とう/\たらり/\ら。地「ち りやたらりたらりら。たらりあがりらゝ りとう。千歳「鳴るは瀧の水。鳴るは瀧の 水日は照るとも。地「絶えずとうたりあり うとうとうとう。千歳「絶えずとうたり。 常にとうたり。千歳之舞。千歳「処千代まで おはしませ。地「我等も千秋さむらふ。 千歳「鶴と亀との齢にて。処は久しく栄え

給ふべしや。鶴は千代経る君は如何経る。 地「万代こそ経れ。ありうとうとうと う。千歳之舞。翁「総角やとんどや。地「尋 ばかりやとんどや。翁「座して居たれども。 地「参らうれんげりやとんどや。翁「松や 先。翁や先に生れけん。いざ姫小松年く らべせん。地「そよやりちや。翁ワカ「凡そ 千年の鶴は。万歳楽を歌ふたり。又万代 の池の亀は。甲に三極を備へたり。渚の 砂。索々として朝の日の色を朗じ。瀧の 水。冷々として夜の月鮮かに浮んだり。 天下泰平国土安穏。今日の御祈祷なり。 在原や。なぞの。翁ども。地「あれはなぞ の翁ども。そやいづくの翁とう/\。 翁「そよや。翁之舞。翁「万歳の亀これにあ り。千年の松庭にあり。誠にめでたき 例には。石をぞ引くべかりける。地「君が 代は。翁「千秋万歳の。歓の舞なれば。一 舞まはう万歳楽。地「万歳楽。翁「万歳楽。

地「万歳楽。 〈十二月の往来〉 翁二人「とう/\たらり/\らたらりあが りらゝりとう。地「ちりやたらりたらり ら。たらりあがりらゝりとう。翁左「所千 代までおはしませ。地「我等も千秋候は ん。翁右「鶴と亀との齢にて。地「幸ひ心に任 せたり。翁二人「とう/\たらり/\ら。 地「ちりやたらりたらりら。たらりあが りらゝりとう。千歳「鳴るは瀧の水。鳴 るは瀧の水日は照るとも。地「絶えずとう たりやりうとうとうとう。千歳「絶えず とうたり。常にとうたり。千歳「所千代 までおはしませ。地「我等も千秋候はん。 千歳「鶴と亀との齢にて。処は久しく栄 え給ふべしや。鶴は千代経る君は如何経 る。地「万代こそ経れ。ありうとうとう。 翁左「総角やとんどや。地「尋ばかりやとん

どや。翁右「やあ座して居たれども。地「参ら うれんげりやとんどや。左詞「やゝ尉殿に 申すべき事の候。右詞「そもやそも何条事 にて候ふぞ。左「かゝるめでたきみぎんに は十二月の往来こそめでたう候へ。右「そ れこそ尤もめでたう候へ。左「正月の松の 風。右「八絃の琴を調べたり。左「二月の霞 は。右「天つ処女の羽衣よ。左「三月の桃の 花。右「三千年も猶さかふる。左「四月の橘 は。右「常世の国もかはらじ。左「五月の菖 蒲草。右「大御殿に葺きたり。左「六月の氷 は。右「僊のつたへなりける。左「七月の梶 の葉は。右「幸をもとむる種とかや。左「八 月の月はそも。右「尽きせぬ秋と照すな り。左「九月の菊の花。右「老いせぬ薬なる かも。左「十月の竜胆草は。右「うち日さす なへゑまはし。左「十一月の梅の花。右「新 嘗まつる心葉。左「十二月のみ雪は。右「豊 年しらす祥瑞。左「やあ千歳々々。右「ちと

せの千歳。左「やあ万歳々々。右「よろづよ の万歳。地「御たゝはします。御貢の御宝。 かぞへてまゐらん。翁ども。地「あれは何 所の翁ども。そやいづくの翁とうとう。 翁二人「そよや。二人「千秋万歳の。祝の舞 なれば。一舞まはう万歳楽。地「万歳楽。 翁「万歳楽。地「万歳楽。 〈父尉延命冠者〉 父尉「あれはなぞの小冠者ぞや。地「釈迦牟 尼仏の小冠者ぞや。生れし所は〓{新字源:2391 タウ}利天。 父尉「育つ所は鼻が。地「そのましまさば。 とくしてましませ。父の尉親子と共につ れて御祈祷申さん。父尉「一天雲治まつて 日月の影明し。雨うるほし風穏かに吹い て。時に随つて旱魃。水損の恐更になし。 人は家々に楽の声絶ゆる事なく。徳は 四海にあまり。悦は日々に増し。上は五 徳の歌を諷ひ舞ひ遊ぶ。そよや悦に。又

悦を重ぬれば。ともに嬉しく。地「物見 ざりけりありうとう/\。